第3話

中2の冬、俺は当時クラス委員だった藤井に呼び出された。俺は藤井に「もう早瀬くん、成績悪すぎ!今のままじゃ、どこの高校にも行けないよ?」と言われた。しかし俺は、「どうせ野球で高校行くし、勉強なんてどうでもいいだろ」と言ったが、「野球推薦でも学力試験があるって先生、言ってたよ?」と言われた。それからだな、俺がまともに勉強をやり出したのは。中3の夏からは塾にも通い始めて、それなりに学力がいると言われた高校に無事進学したんだよな。




◇ ◇ ◇




ある日の夕方、俺は藤井に呼び出された。どうやら今、地元に戻っているらしい。俺はすぐ、藤井がいるという近所の居酒屋に向かった。すでに帰宅していた妹からは、「お兄ちゃん、急に出かけるって・・・ついに彼女できたの?」と言われたが。




「あ、早瀬くんだ。久しぶり!だいぶ変わったね」




店に入るとすでに藤井がいた。10年ぶりに会った藤井は多少は背が伸びたのか、それとも化粧のせいか、少し大人っぽくなっていたが、見た目の雰囲気は中学時代とほとんど変わっていなかった。ただ、藤井はビールに手をつけていた。それだけが10年という時間が経過されたという証明だ。お互いもう、酒が飲める年齢になったんだな。




「お前、ちっとも変わってねえな」


「早瀬くんが変わりすぎなだけだよ」


「だってお前、坊主頭の俺しか見てないもんな」


「うん。だから私から見れば、早瀬くんは少し髪伸ばしただけでもだいぶ変わったって感じるの」


「つーか、まだメガネかけてるのか」


「うん。仕事のときはコンタクトしてるんだけどね」


「しっかし、お前が酒飲んでるところを見るとはな」


「私、もう26だよ?早瀬くんだって飲むでしょ?」


「まぁな」




藤井の隣の席に座った俺は早速、タバコを吸い、食事とビールを注文した。




「早瀬くんって、タバコ吸うんだね。やめといた方がいいよ・・・」


「藤井はタバコ吸わんのか」


「うん。私、タバコ吸う人嫌いなの」




俺は軽く凹む。結局、居酒屋の店主からも、「カウンター席は禁煙だから別の所で吸ってくれ」と言われたので、俺はタバコを止めた。




結局、10年ぶりとなる藤井との再会は、2人だけの同窓会で幕を閉じた。こうして会ってみると、話すことが多いこと多いこと。あいつは今どこに住んでるだ、何やってるだ、もう結婚してるだ、子供いるだで色々話していた。藤井は大人しそうな外見の割には、意外とおしゃべりで、昔から友達が多いんだよな。誰とでも仲良く話していた。藤井のそういう性格が、声優として成功できたんじゃないのかなぁ・・・って俺は思った。




「お前結構飲んでたけど、大丈夫か?」


「うん。実家近いし。それに早瀬くんも結構飲んでたよね?」


「あ?そうだな。お互い気つけないといかんな」




お互い、かなり酒を飲んだのか、顔を真っ赤にしている。そして俺は、「そういえば早瀬くん、最後に話があるの」と言われて、藤井から封筒を手渡された。俺は早速、藤井から渡された封筒の中を開けてみた。




「これって・・・」


「来月にこっちで行われる、全国ツアーのチケット。2席分あるから、彼女さんでも連れてきたら?」


「いや俺、彼女いねぇし・・・」


「そう、意外・・・だったら知沙ちゃんを誘ったら?」


「そうだな。あいつ、アニメ意外と好きだし、誘いに乗るかもしれない」


「え、そうなの?私も久しぶりに知沙ちゃんの顔を見たいなぁ・・・」




藤井と別れ帰宅した俺は、早速知沙を誘った。知沙はやっぱり、「え?莉穂さんのライブのチケットあるの?行きたい!」と言ってくれた。無事、知沙を誘うことができた俺は、知沙とライブに行くことを藤井に伝えた。すると藤井は、「え、知沙ちゃんも来てくれるの!?」と嬉しそうな言葉で言われたのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る