第2話
思えば、あいつとはどれくらい仲が良かったのだろう。
小学校高学年の時だったと思う。休み時間、彼女は教室で1人でいることが多かった。本読んでるか、絵描いてるかのどっちかだったと思う。しかし俺は校庭で遊んでばかり。当時の俺はクラスのリーダー格だったから、毎日のように彼女を誘っていたかな。
「
「嫌だ。私、
いつもそんな感じだったと思う。でも、最初は教室で見てるだけだったのに結局は遊んでくれた。運動が苦手だったのは本当だったけど。
中学生になると、彼女はいじめに遭っていた。彼女は頭が良かったから、それに他の生徒が嫉妬してたのだろう。俺も彼女がいじめに遭っているところを何度か目撃したため、彼女を見かねた俺はいじめてた同級生に「これ以上藤井をいじめるのはやめてくれ」と言った。するといじめもなくなり、彼女から「早瀬くんって優しいんだね・・・イメージとは違ってた」と言われたっけ。
中学卒業後、俺が地元を離れたのに対し、彼女は地元のトップ校に進学した。そして俺は東京の大学に進学し、彼女も東京の女子大に進学したらしいが、結局、大学4年間で一度も会うことはなかった。
ある日の午後、俺は昼食を買いにコンビニに行った。コンビニでふと、ある漫画雑誌に目が入った。目に入った原因でもある、表紙を見た。藤井がいた。声優になったはずの
結局、昼食のついでに雑誌も購入した。しかし、漫画雑誌を買うのは久しぶりだ。この漫画まだ続いてたんだ、という漫画もあれば、連載が終わっていた漫画や全く知らない漫画もあった。
夕方になり、妹が帰宅した。10歳年下の妹・
宛先の主は、藤井だった。ついでに言うと、藤井の自宅と思われる、東京の住所から送られていた。そして俺は、藤井から送られた手紙を読む。
◇ ◇ ◇
拝啓
もうすぐ夏ですね。東京も日に日に暑くなっています。
早瀬くんはお元気ですか?今、実家にいると友達から聞きました。早瀬くんとはもう10年、会っていないね。
小学校の時、いつも私を休み時間に校庭まで誘ってくれた早瀬くん。
中学校の時、いじめられていた私を助けてくれた早瀬くん。
高校で離れ離れになっちゃったけど、私は野球をやっている早瀬くんのことをいつも応援していました。
早瀬くんはもう野球を辞めちゃったね。それだけは残念です。今は何してるのかな?私は東京で歌手とアニメの声優をやっています。もし早瀬くんが仮にアニメに興味を持って、もう私のことを知っていたら嬉しいです。
8月には全国ツアーがこっちでも行われるので、よかったら来てください。あとイベントでこっちに行く機会が度々あるので、その時も来てくれたら嬉しいです。
私の近況や今後のイベントの予定については、公式サイトやブログ、Twitter、LINEに色々書かれているので、よかったら見てください。
敬具
平成30年6月20日
◇ ◇ ◇
手紙には携帯の電話番号とメールアドレスが書かれたメモが同封されていた。メモには、『よかったら連絡ください』と書かれていた。俺は時間を見計らい、藤井に電話することに決めた。
『はい、藤井です』
「早瀬です。久しぶりだね」
『え!?この声、早瀬くんだよね?本当に電話くれたの?』
「うん。ところで藤井は今、電話大丈夫?」
『うん、大丈夫』
「ならよかった・・・藤井が今、売れっ子声優になってることを知って驚いてるよ」
『ありがとう。私、歌手と声優になることが子供の頃からの夢だったの』
「中学の卒業文集にそう書いてあったな」
『早瀬くんもプロ野球選手になるって書いてたよね』
「ああ。一度夢は叶ったけど、結局は挫折しちまった」
『ごめんね・・・私だけ成功しちゃって』
「大丈夫だよ。俺も結局は夢を叶えたわけだし」
『もう時効だから言うけど、私、早瀬くんが初恋の相手なの』
「え?マジ!?」
『うん。背高くて、かっこよくて、野球やってて、クラスのリーダー的存在。女子はみんな早瀬くんのことが好きだったと思う』
「藤井の初恋が俺だって言われて嬉しいよ。俺も藤井が初恋の相手だよ」
『え!?そうだったの?私、見た目パッとしないし、オタクだし、絶対早瀬くんに軽蔑されてると思ってたのに・・・』
「軽蔑なんてしてないって!事実、中学の時、お前がいじめられてたところ助けたじゃん!」
『あっ、そうだったね・・・私あの時、早瀬くんって意外と優しいんだなって思った』
「まああの後、『もう藤井さんをいじめたりはしない』って言ってたっけ。事実、あの時以降、藤井がいじめられることはなくなったし」
『あの時は私、助けられたんだな・・・て思ったの』
「あっ、そうなんだ。ありがとう・・・」
『あ、これからラジオの生放送あるし、そろそろ電話切らなきゃいけないわ。短い時間だったけど、早瀬くんと話せてよかった』
「俺も藤井と久しぶりに話せてよかった・・・」
『ありがとう。また電話よろしくね』
「うん。また暇な時電話しようぜ」
藤井との電話を終えた数時間後、藤井がパーソナリティーを務めるラジオが始まった。藤井はその時、初恋の男の子の話題を出していた。その男の子は、まごうことなき俺だった。
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