第2話

思えば、あいつとはどれくらい仲が良かったのだろう。




小学校高学年の時だったと思う。休み時間、彼女は教室で1人でいることが多かった。本読んでるか、絵描いてるかのどっちかだったと思う。しかし俺は校庭で遊んでばかり。当時の俺はクラスのリーダー格だったから、毎日のように彼女を誘っていたかな。




藤井ふじいも遊ぼうぜ。昼休み、教室でこもってるのお前だけだぞ」


「嫌だ。私、早瀬はやせくんと違って運動苦手だし」




いつもそんな感じだったと思う。でも、最初は教室で見てるだけだったのに結局は遊んでくれた。運動が苦手だったのは本当だったけど。




中学生になると、彼女はいじめに遭っていた。彼女は頭が良かったから、それに他の生徒が嫉妬してたのだろう。俺も彼女がいじめに遭っているところを何度か目撃したため、彼女を見かねた俺はいじめてた同級生に「これ以上藤井をいじめるのはやめてくれ」と言った。するといじめもなくなり、彼女から「早瀬くんって優しいんだね・・・イメージとは違ってた」と言われたっけ。




中学卒業後、俺が地元を離れたのに対し、彼女は地元のトップ校に進学した。そして俺は東京の大学に進学し、彼女も東京の女子大に進学したらしいが、結局、大学4年間で一度も会うことはなかった。






ある日の午後、俺は昼食を買いにコンビニに行った。コンビニでふと、ある漫画雑誌に目が入った。目に入った原因でもある、表紙を見た。藤井がいた。声優になったはずの藤井莉穂ふじいりほが。しかも水着。そういえばもう夏か。俺は藤井のグラビアをチラッと見た。グアムで撮影したようだ。そして、背が低い割には意外とバストはある。しかし、最近の声優はグラビアアイドルみたいな仕事もしなければならないのかと、俺はちょっと同情した。




結局、昼食のついでに雑誌も購入した。しかし、漫画雑誌を買うのは久しぶりだ。この漫画まだ続いてたんだ、という漫画もあれば、連載が終わっていた漫画や全く知らない漫画もあった。





夕方になり、妹が帰宅した。10歳年下の妹・知沙ちさは、成績優秀で、今は藤井と同じ高校に通っている。兄が言うのも何なのだが、長い綺麗な黒髪がとても似合う美少女だ。知沙は俺に「そういえばお兄ちゃん宛に手紙が届いてるよ」と言われたので、俺は宛先を確認した。




宛先の主は、藤井だった。ついでに言うと、藤井の自宅と思われる、東京の住所から送られていた。そして俺は、藤井から送られた手紙を読む。




◇ ◇ ◇




 拝啓


 もうすぐ夏ですね。東京も日に日に暑くなっています。

 早瀬くんはお元気ですか?今、実家にいると友達から聞きました。早瀬くんとはもう10年、会っていないね。


小学校の時、いつも私を休み時間に校庭まで誘ってくれた早瀬くん。


中学校の時、いじめられていた私を助けてくれた早瀬くん。


高校で離れ離れになっちゃったけど、私は野球をやっている早瀬くんのことをいつも応援していました。


 早瀬くんはもう野球を辞めちゃったね。それだけは残念です。今は何してるのかな?私は東京で歌手とアニメの声優をやっています。もし早瀬くんが仮にアニメに興味を持って、もう私のことを知っていたら嬉しいです。

8月には全国ツアーがこっちでも行われるので、よかったら来てください。あとイベントでこっちに行く機会が度々あるので、その時も来てくれたら嬉しいです。

私の近況や今後のイベントの予定については、公式サイトやブログ、Twitter、LINEに色々書かれているので、よかったら見てください。


                                  敬具


平成30年6月20日                        藤井莉穂ふじいりほ


早瀬良太はやせりょうた




◇ ◇ ◇




手紙には携帯の電話番号とメールアドレスが書かれたメモが同封されていた。メモには、『よかったら連絡ください』と書かれていた。俺は時間を見計らい、藤井に電話することに決めた。




『はい、藤井です』


「早瀬です。久しぶりだね」


『え!?この声、早瀬くんだよね?本当に電話くれたの?』


「うん。ところで藤井は今、電話大丈夫?」


『うん、大丈夫』


「ならよかった・・・藤井が今、売れっ子声優になってることを知って驚いてるよ」


『ありがとう。私、歌手と声優になることが子供の頃からの夢だったの』


「中学の卒業文集にそう書いてあったな」


『早瀬くんもプロ野球選手になるって書いてたよね』


「ああ。一度夢は叶ったけど、結局は挫折しちまった」


『ごめんね・・・私だけ成功しちゃって』


「大丈夫だよ。俺も結局は夢を叶えたわけだし」


『もう時効だから言うけど、私、早瀬くんが初恋の相手なの』


「え?マジ!?」


『うん。背高くて、かっこよくて、野球やってて、クラスのリーダー的存在。女子はみんな早瀬くんのことが好きだったと思う』


「藤井の初恋が俺だって言われて嬉しいよ。俺も藤井が初恋の相手だよ」


『え!?そうだったの?私、見た目パッとしないし、オタクだし、絶対早瀬くんに軽蔑されてると思ってたのに・・・』


「軽蔑なんてしてないって!事実、中学の時、お前がいじめられてたところ助けたじゃん!」


『あっ、そうだったね・・・私あの時、早瀬くんって意外と優しいんだなって思った』


「まああの後、『もう藤井さんをいじめたりはしない』って言ってたっけ。事実、あの時以降、藤井がいじめられることはなくなったし」


『あの時は私、助けられたんだな・・・て思ったの』


「あっ、そうなんだ。ありがとう・・・」


『あ、これからラジオの生放送あるし、そろそろ電話切らなきゃいけないわ。短い時間だったけど、早瀬くんと話せてよかった』


「俺も藤井と久しぶりに話せてよかった・・・」


『ありがとう。また電話よろしくね』


「うん。また暇な時電話しようぜ」




藤井との電話を終えた数時間後、藤井がパーソナリティーを務めるラジオが始まった。藤井はその時、初恋の男の子の話題を出していた。その男の子は、まごうことなき俺だった。

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