Scene53. 2月14日 (5週目) 昼7
「何だ、君は!」
飛び込んだ美術準備室で見えたのは、予備の机に寝かされて制服がはだけている小春と、それに覆いかぶさろうとしている天木先生だった。
驚く様な事じゃない。
こいつは去年も小春に言い寄って、拒まれて、いじめの様な仕返しをした男だ。
こういう事をやらかしても、おかしくなかった。
ただ、見つけた以上は許すわけにはいかない。
「小春から離れろ!」
「おい、教師に向かってなんだその態度は」
俺が天木先生とにらみ合っている所に、森谷も後ろから加勢した。
「あーあ、教師のクセになにしてるんですかねぇ。天木先生?」
「くだらない事を言うな。この女から誘って来たんだ!」
「いやー、その言い訳は無理っしょ。手紙で呼び出しておいて」
森谷は4ツ折りになった手紙をポケットから出して見せる。
「何を証拠にそんな」
「悪いな、天木先生。俺さぁ、見てたんだよねぇ。あんたが女の子の下駄箱に何か仕込んでるところ」
森谷はヘラヘラと笑って言う。
……お前、そんな大事なこと知っていたのなら先に言ってくれ!
「くっ……」
天木先生は自分の状況を劣勢と見たか、近くの棚にある工作ナイフを手に取り小春に向ける。
「お前ら、動くなよ? 私だって可愛い生徒を傷つけたくはない」
「最低だな……」
膠着状態が続く。
「お前ら、今日ここで見た事を忘れろ。残りの高校生活、楽しく過ごしたいだろう?」
天木先生の冷たい声が準備室に響く。
こういう面を知らない生徒達からの信頼が厚い天木先生の事だ、この事をバラせば今後の学校生活は無事ではいられまい。
「わかった……」
俺は天木先生の言う事に従う事にする。
今日、小春を無事に助けさえすればいいんだ。
「おい、城之内……」
「悪いな森谷。ここはおとなしく従おう」
俺と森谷は身構えを解き、天木先生に向き直る。
「よし、お前ら。両手を頭に置いて教室の隅に立て。そっちの奥の方だ」
天木先生の指示に従い、俺たちは天木先生の為の逃げ道を用意する。
「これでいーっすかー?」
森谷が間延びした声で呼びかける。
天木先生は準備室の奥に立つ俺たちを睨みつけながら、少しずつ小春の拘束を解いていく。
「フン、クソガキども。授業中もそれぐらい聞き分け良くしておけ」
俺は途中から気付いていた。
岡崎さんが準備室の扉の前からいなくなっている事を。
頭の上で両手を組みながら、複数の足音が近づいている事も分かった。
「こっちです、先生!」
岡崎さんが準備室の扉の前に再び現れる。そして廊下の先の方に向かって呼び掛けていた。
そのすぐ後に、岡崎さんが呼びに行ってくれていた屈強な男性教師たちが美術準備室になだれ込んでくる。
「天木先生!? これは一体どういう事ですかな?」
天木先生はさすがに観念したのか、青ざめた顔でうなだれた。
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