Scene51. 2月14日 (5週目) 昼5
「小春ちゃん……? 屋上に呼んだはずなんだけどな?」
森谷は立ち上がって小首をかしげる。
そして、岡崎さんが貰ったという2通の手紙を見比べる。
「うーん、やっぱり変なんだよなぁ。この1通目の手紙」
「どういう事?」
「ほら、2通目見てくれよ」
そう言って森谷は2通の手紙を並べて見せる。
1通目。
『場所を変えよう
今日の昼休み
屋上で待つ
城之内』
2通目。
『岡崎さんへ
話したいとこがあります。
今日の昼休みに美術準備室に来てください。
森谷』
岡崎さんはそれをじっくり眺める。
「どちらも同じ、パソコンで書いた文章ね?」
「そういえば俺も貰ったんだった」
俺は思い出して、ポケットに入れたままになっていた手紙を取り出す。
3通目。
『Dear 愛しの城之内くんヘ(はぁと
今日のお昼休み、屋上でまってます(はぁと
小春より(はぁと』
それを見て森谷は意気揚々と語り始めた。
「ほらな! 俺は手紙を書く時には宛名をちゃんと書くんだよ」
「そう、それで?」
「1通目には宛名が書いてないだろ? 俺が小春ちゃん家のポストに入れた手紙にも確かに宛名を書いたはずなんだよ」
「待って、森谷くん。1通目は今朝、私の下駄箱に入っていたのよ?」
「そうなのか? じゃあ誰が……」
「森谷くんが入れたわけじゃないのね?」
森谷はしばらく悩んだ後、首を縦に振る。
「そうだよ。城之内と小春ちゃんを屋上に、岡崎さんを美術準備室に呼び出そうと思って昨日その手紙を作ったんだ。学校のパソコンルームで」
「昨日の放課後、急に用事があるって言っていなくなったのは、これを作るためなのね?」
「ああ。先生に頼んでパソコンルームを開けて貰って、そこで印刷したんだ。家にパソコンが無いからさ」
「その後、私たちの家のポストに入れたのね?」
「今朝早起きしてな。大変だったぜ、3人分配達するのは。俺も下駄箱に入れれば良かったぜ」
「それで……手紙を入れたのに私が屋上に向かったから。後をつけてきたの?」
「まぁ、そういう事だ」
「途中で見失わなかった?」
岡崎さんは怪訝な表情で森谷の顔を覗き込む。
咎められているのかと察した森谷は狼狽しながら応える。
「え……? そりゃ、どういう事で?」
「さっきあなたはこう言ったわ。『後をつけようとしたら……美術準備室じゃなくて屋上に来っていうから』って」
「そうだっけ? 岡崎さんって記憶力いいんだな」
「ちゃんと答えて。思い出して」
岡崎さんは妙に言葉尻にこだわっている。何か気になる事でもあるのだろうか。
「えーっと……岡崎さんを追って教室を出たら、もう姿が見えなかったな」
「それで?」
「美術準備室に向かおうとしたんだ。そしたら……たしかクラスの岩村と階段の所で会って」
森谷は叱られた子どものように目を泳がせながら必死に記憶をたどっている。
「岩村? 岩村綾音ちゃんの事かしら?」
「そうそう。出席番号1番で、やたら天木先生に懐いてる子な」
言われて俺も岩村さんの事を思い浮かべる。
小柄なショートカットで寡黙な女の子だ。2年生になって1学期の間は出席番号順に座っていたので何かと担任の天木先生の頼まれ事を引き受けていた印象がある。
「それで、綾音ちゃんは何て?」
「んー。美術準備室の前の廊下に立ってたから、岡崎さんが来たか聞いたら『屋上に行った』って言われて。それでここに来たってわけよ」
森谷は記憶をたどりながら何とか話し終えた。
岡崎さんは森谷の言葉を聞き終えると、ハッと表情を強張らせて校舎への階段を駆け降り始めた。
「岡崎さん、どこに行くんだよ?」
残された俺と森谷は慌てて岡崎さんを追いかける。
岡崎さんはこちらも振り向かずに告げた。
「美術準備室よ! 私の思い過ごしなら、後で笑って頂戴!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます