Scene47. 2月14日 (5週目) 昼1
俺は結局その日の朝に小春に会うことなく授業を受けていた。
森谷の書いた手紙を小春も受け取っていたのならば、昼休みに屋上に来るのだろう。
なんとかその場の流れで昨日の事を謝って、仲直りできれば良いと思っていた。
手紙を見ても来なかったら、とは思わない事にして。
昼休みの鐘が鳴ってすぐに俺が席を立つのを、遠くの席から森谷が見てニヤついていた。
気恥ずかしいが、仕方ない。
俺は平静を装って教室を出る。
この寒い日に屋上で昼食を取ろうという生徒はいないようで、屋上に辿り着いた俺はそこに誰もいないことにほっと一安心した。
外気に晒されて冷たくなったベンチに座って、人を待つ。
もしかしたら、誰も来ないかもしれない。
それならそれで、仕方ない。
バレンタインなんて口実なしに、小春にしっかりと向き合いたい。
そう思っていた。
吐息で指先を温めながら、コートを着ずに屋上に来た事を後悔し始めた頃。
屋上の出入り口となっている扉が開いた。
そこから現れたのは、俺が期待していたのとは異なる人物だった。
「おまたせ、城之内くん」
「……岡崎さん!?」
そこに現れたのは、そう。
俺がかつて過ごした事のある2月14日に、この屋上で小春にナイフを向けていた張本人。
岡崎さんだった。
その手には、赤い紙袋。
真っ赤な真っ赤な、血のような……。
それを持って岡崎さんは俺にゆっくりと近づいてくる。
俺の正面に狙いをすませて、俺の前で立ち止まり、赤い紙袋に手を入れ……。
俺は緊張で身動きできなくなる。
屋上は寒いというのに冷や汗が出てきた。
「受け取って、私の気持ち」
勢いよく差し出されたそれは、あまりにも露骨な形をした……。
ハートの形の箱だった。
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