Scene46. 2月14日 (5週目) 朝

 俺は森谷が書いた手紙をポケットに入れて、学校に向かった。

 1回目の2月14日と同じように森谷が玄関の下駄箱前の廊下に隠れていた。

「……何やってるんだ、森谷」

 分かっているけど、一応聞いてやる。

「おわっ、城之内! バカ、声かけてくるんじゃねえよ! 見つかったらどうするんだ!」

 森谷は誰からも見える様な消火栓の陰で身をかがめている。

「見つかるって、誰にだよ」

「ンだよ、いちいち説明しないと分からないか? 今日はバレンタインデーだぞ?」

「うん、だから?」

「誰かが俺の下駄箱にチョコレートを入れてくれるかもしれないだろ!?」

 前にもあった同じ展開。

 付き合ってやろうかとも思ったけれど、先に俺の要件を済ませようと思った。

「そんな事よりも、森谷……」

「そんな事って!? 俺はただロマンスの神様が俺に微笑む瞬間を見届けたいんだよ! それぐらい夢見たっていいだろぉ!? うっ、グス……」

「いや、うん。わかった。分かったから泣くな」

「分かってくれるか!」

「あぁ。分かる。分かったから聞いてくれ」

 俺はポケットの手紙を取り出して森谷に突き付ける。

「何だ、この手紙」

 俺が差し出した手紙を見て森谷は大げさに驚いて見せる。

「おおーっ! 城之内、これって小春ちゃんからのラブレターじゃないのか!?」

「あのな、森谷。小春は俺の事を城之内なんて呼ばないんだよ」

 それを聞いて森谷はハッと顔を強張らせた。

「そ、そそ、そうかぁー。どうしたんだろうなー、そんな風にあらたまって!」

 森谷は俺の詰問にもめげずに下駄箱監視を続ける。

 仕方ないので俺も一緒に隠れて話を続ける。

「わかった、話を合わせよう。俺はどうしたらいいと思う?」

 妥協の末、手紙の差出人の意図を聞き出す事にした。

「そりゃ、お前……。書いてある通りにするしかないだろう」

 森谷は露骨に呆れた顔で言う。

 そんな顔をされる謂われは何だけどな……。

「それで、俺が小春と仲良くなったらお前にどんな得があるんだ?」

「そ、それは……」

 釣られて俺も呆れながら森谷に問いかける。

「……岡崎さんだろ、お前の目当ては」

「ば、ばっかやろう!! 俺はお前の為にしているのであって、そんな自分の為になんて!」

 森谷は立ち上がり、顔を真っ赤にして否定する。

「おいおい、落ち着け。隠れてるのがばれるぞ?」

 もうばれている。それどころか目立っているぐらいだ。

 周囲の目が、ひたすら痛かった。

 森谷は気付いていなかったが、その後ろを岡崎さんが早足で駆け抜けて行った。

 俺はそれを横目で確認する。

 俺が初めての2月14日に見たのとは違う、赤い紙袋を大事そうに抱えていた。


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