Scene45. 2月14日 (5週目) 早朝
目を覚ます。
いつの間にか眠っていたらしい。
時間を確認すると……まだ朝の7時前だった。
日付は2月14日。
バレンタインデーだ。
「そう都合よくいくわけないよな、ははは……」
過去に戻りたいとペンダントに願ってみたけれど、上手くいかなかったらしい。
「あれ、ペンダントどこ行った?」
寝る前に握っていたはずのペンダントは起きたとき手元に無かった。
寝ながらベッドに落としたのかと思ってざっと探してみるが、見当たらない。
「仕方ないか。あんな物にもう頼ったりはしないし……」
気を取り直して俺は立ち上がる。
ふと、家の外からカタンと音がしたので窓から様子をうかがった。
玄関のポストに郵便物が投函される時に鳴る音の様だったが、それにしては時間が早すぎる。
「……何やってんだ、アイツ?」
俺の家の玄関の方から、小春の家の方に向かう人物の背中がはっきりと見えた。
森谷だ。
そいつは小春の家のポストにも何かを入れて行った。
小春にもメールで知らせてやろうと思ったが、思いとどまる。
昨日の夜、ケンカをしたばかりなのだ。
仕方なく俺は早々に服を着替えて家の外に出た。
「何やってんだ、おまえ……?」
「うえっ!? じょ、城之内! いやー奇遇だな」
「奇遇って……お前の家は駅向こう、この辺りは通学路じゃないだろう?」
森谷は電柱の陰に身体をひそめる様にして、あからさまに挙動不審だった。
「なぁーに言ってるんだよ、城之内。知らなかったのか? 近ごろ俺は健康のためにウォーキングを始めたんだ!」
「あぁ、知らなかったな。今日からか?」
「おうっ! 思い立ったが吉日って言うからな! あっはっはっは!」
相変わらず嘘が下手な奴だ。
俺がいぶかしんでいると森谷は居心地が悪くなったのか、電柱から離れて学校の方へと歩き出した。
「先に行ってるぜ、城之内。俺は学校で用事があるんだ」
「何だ、下駄箱の前で監視でもするのか? チョコレートを入れられる瞬間でも見届ける為に」
「うげっ、お前、何でそれを……」
「去年もやってただろうが」
俺は呆れながら森谷に手を振る。さっさと行けと促す様に。
それに見送られながら森谷は呑気に鼻歌を唄いながら去っていった。
と、その前に振り返り言う。
「そういえば、さっき小春ちゃんがお前のポストに何か入れてたぜ! ラブレターかもな!」
ビシッと親指を立てて俺にウィンクを飛ばしてくる森谷。
やめろ、気持ち悪い。
それにしても、ラブレターか。
俺はさっき森谷が俺の家のポストに何か入れた音を聞いているんだがなぁ。
仕方なく郵便受けを見る。
投函口に質素な封筒が突っ込まれていた。
『城之内くんヘ(はぁと』
……。
封を切って中身を確かめる。
パソコンで書かれた明朝体で簡潔に3行ほど書かれていた。
『Dear 愛しの城之内くんヘ(はぁと
今日のお昼休み、屋上でまってます(はぁと
小春より(はぁと』
「……森谷。お前やっぱりバカだろう」
呆れながらも、俺は友人の気づかいに感謝した。
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