Scene44. 2月13日 (5週目) 夕方2
「ふふっ、男の子って単純なのね」
岡崎さんの声は何だか弾んでいる。
この状況を楽しんでいるのだろうか。
俺の横顔に岡崎さんの視線が突き刺さっているのを感じる。
気まずい……。
小春が早く帰って来る事を願ったけれど、せめて顔の熱が冷めてからにして欲しいと思った。
結局小春はオレンジジュース2つとアイスコーヒーを持って帰ってきた。
随分手間取っていたみたいだ。
ジュースを受け取って、それからは3人でそれぞれ好きな歌を順番に歌っていった。
結局、延長含めて3時間で俺たちのカラオケは終わった。
外に出た時すでに空は真っ暗になっていた。
岡崎さんと駅前で別れて、俺は小春と同じ方向に帰っていく。
小春はいつもよりも少し早足で、家が見えるあたりに着く頃には俺は小春の少し後ろを追いかける様になっていた。
「小春、どうしたんだよ」
俺が後ろから声を上げると、小春は立ち止った。
しかし俺が追いついても小春は振り向かない。
「……見てたから。可奈子ちゃんにされてた事」
小春の口元に白い吐息が広がるのを俺は後ろからただ見ている事しかできなかった。
「見てたって……あれは……」
俺は慌てて小春の前に回ろうとするが、小春は顔を逸らした。
「あんなの、ちゃんと拒めばいいでしょ! 太もも触られて、鼻の下伸ばして!」
しっかり見られていたらしい。
「伸ばしてなんて…ないぞ!」
「いいよ、もう! 知らない!」
小春は肩を落とした後、家の方にサクサクと歩いて行ってしまった。
「悠斗のばか!」
俺は小春を追いかける事もできずにただ夜道に取り残されてしまった。
「なんなんだよ……もう」
確かに岡崎さんを拒まなかった俺にも落ち度があったかもしれない。
俺は帰りの道を一人で歩いた。
小春の部屋の明かりが点き、すぐにカーテンが閉ざされるのが見えた。
×××
俺は自室のベッドに腰掛けて今日の事を思い返す。
小春を助ける為に未来から来て、事件の発端となる出来事は回避した。そのはずだ。
だから安心して、事件が起きる事なんて伝えずに、小春に気持ちを打ち明けた。
それなのにどうして、些細な事で信頼を裏切って喧嘩してしまったんだろう。
俺はふとベッドの脇の机にあるペンダントに目をやる。
死んだ未来の小春から貰ったものだ。
小春の事はなんとか助ける事ができそうだ。
でも、こんな風に別れてしまっていいのだろうか。
自分がだらしないばっかりに、小春に嫌われてしまって。
もう一度やり直す事ができれば、今度はもっとうまくやるのに。
俺はペンダントを手に取り、願った。今日一日をやり直したいと。
ペンダントは淡い光を灯し、光った。
そして、俺の意識は闇に吸い込まれていった。
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