Scene43. 2月13日 (5週目) 夕方1

 俺は岡崎さんに言われるままに、小春と合流して3人で駅前のカラオケに行った。

 4人ぐらいしか入れなさそうな小さな個室に女子2人と男子が俺1人というのはどうにも居心地が悪かった。

 俺は小春と岡崎さんに挟まれるように狭い席に座らされた。

「悠斗、私こういう所に来るの初めて!」

「そうなのか? やり方わからなかったら教えるぞ」

「城之内くん、こういう所に来るの慣れてるの?」

「え、いや……森谷とよく来るんだ」

「悠斗、男子2人だけで来てるの?」

「よくつるむのが森谷にしかいないから」

「城之内くん、私でよければ次からは参加させてくれないかしら」

「悠斗! 私も!」

「城之内くん」

「悠斗!!」

 俺を挟んで、小春と岡崎さんが睨みあう形になっている。

「そうだ、俺ドリンクバー取ってくる。何が良い?」

 俺はその場を逃げ出しつつ2人の機嫌を取ろうと提案するが、

「いいよいいよ、私が取ってくるね」

 扉の方に近かった小春がこちらの注文も聞かずに出て行ってしまった。

「おいおい」

「彼氏になる人に良い所見せたいって事なんじゃないかしら。随分と抜けている所があるみたいだけど」

 岡崎さんはカラオケのリモコンで曲を調べながら冷静に呟く。

「確かになぁ」

「ふふっ。彼氏になる人と他の女を部屋に残して二人きりにするなんてね」

「そういう意味で?」

「だって、何か間違いが起きたらどうするのかしら」

「間違いって、何の……」

「あら、教えてあげましょうか?」

 岡崎さんはリモコンを片手に持ち替えて、空いた手を俺の太ももに乗せた。

「!?」

「ちょっと手が疲れちゃったわ。それにしても窮屈な部屋ね。手の置き所が無いわ」

 そう言いながら岡崎さんは俺の足に乗せた手をゆっくりと前後させる。

 その手が俺の足の付け根に届きそうになった時に、部屋の扉が急に開いた。

 サーッと自分の血の気が引く音が聞こえたような気がした。

「ごめん、注文聞くの忘れてた! 甘いのと苦いのがあったよ!」

 開いた扉から顔を覗かせたのは、小春だった。

 注文を聞きに戻って来たようだ。

「私は炭酸以外の甘いものをお願いするわ」

 岡崎さんはさりげなく俺の足を撫でまわしていた手を上げてくれた。

「わかった! 悠斗は?」

「俺は……アイスコーヒー」

「おっけー、じゃあ行ってくる!」

 扉を閉めて、足音が遠ざかっていく。

 俺は大きくため息をついた。

 とてつもない後ろめたい気持ちが広がると同時に、バレずに済んだことに安堵した。

 横目で岡崎さんを見ると、澄ました笑顔でリモコンを操作していた。

 俺の視線に気付き、いたずらっぽく笑う。

「どうかした?」

「どうって……あのなぁ」

「ドキドキした?」

 岡崎さんに顔を下から覗きこまれる。

 俺はとっさに目を逸らした。

 獲物を捕らえるネコ科の動物のような視線に耐えられなくなったのだ。

 再び俺の太ももに手が置かれる。

 さっきよりも大胆な動きで俺の太ももを撫でている。

 俺は耳まで熱くなるのを感じた。

 と、ふいにその手が離れて安堵よりも物足りなさを感じてしまった。

 それが顔に出ていたのだろうか。

 隣から含み笑いが聞こえた。


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