Scene42. 2月13日 (5週目) 放課後

 昼休みも終わり、俺と小春はそれぞれの教室に戻った。

 放課後にカラオケに誘うのを忘れていたが、一緒に帰る時に誘えばいいかと思い直した。

 そういえば森谷は上手く岡崎さんを誘えたのかな、なんて呑気に考えながら午後の授業を受けた。

 俺はクラスで窓際の真ん中あたりに座っている。

 同じクラスの森谷は廊下側の後ろ、岡崎さんは廊下側の一番前だ。

 帰りのホームルームが終わり、ふと眼をやると岡崎さんがこちらの様子を覗っているのが目に入った。

 俺は急いで荷物をまとめて、岡崎さんの席に向かった。

「岡崎さん、放課後の予定は空いてる?」

 今まで俺は岡崎さんに自分から話しかけた事も、たぶんあまり無かった。

 だけど、同じ日を繰り返しているという余裕からか気軽に声をかける事ができた。

「空いてるわ。あなたが誘ってくれたんでしょう?」

「あれ、そうだっけ?」

「森谷君から聞いたわ。放課後に4人でカラオケに行きたいって」

「なるほど」

 森谷はどうやら岡崎さんを誘っておいてくれたらしい。

 ただ、俺の名前を出せば岡崎さんを釣れると思ったようで。

「でも残念ね。森谷君は急用ができたから伝えておいてと私に言って、先に帰ってしまったわ」

「そうなのか?」

 俺がクラスの廊下側の後ろの席を見ると、確かにそこには森谷の姿は無かった。

「……どこに行ったんだ?」

「さあ。私もそこまでは聞いてないわ」

 岡崎さんは律義に俺のひとりごとに応えてくれた。

 さて、どうしたものか。

 俺が思案していると岡崎さんが心配そうに顔を覗きこんできた。

「4人じゃないと、行けないのかしら。森谷君には悪いけれど、3人で楽しみましょう」

「そうだな……」

 俺は小春の顔を思い浮かべて考える。

 岡崎さんと小春を引き合わせていいものだろうか。

 それに、昼休みに二人きりで過ごした直後に女の子を連れて会いに行ったらどう思われるだろうか。

 俺の思案は深まるばかりだった。

「岡崎さんは良いのか? もうひとり誘ってるのが誰か……」

「知ってるわ」

 岡崎さんは俺の言葉にかぶせる様にキッパリと言った。

「あなたと小春ちゃんがまだ付き合っていない事も、明日から付き合う事も知っているわ」

 俺の目を真っ直ぐ見ている。

 俺はその目に射竦められる。

「だから今日は3人でお友達として過ごしましょう?」

 断ることなどできなかった。


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