Scene41. 2月13日 (5週目) 昼
急に俺に抱きしめられて硬直した小春に畳みかける様に、昼食の約束をした。
俺は昼休みのチャイムが鳴るとすぐに購買でパンを買い、その帰りにペットボトルの温かいお茶を買って小春を誘いに行った。
「小春……あの、さっきは……」
朝の強引な包容に対する詫びのつもりでペットボトルのお茶を差し出す。
小春はそれを受け取るとにっこりと口元に笑みを浮かべた。
「いいって。屋上でお昼食べよっか」
「えっと……うん」
俺は小春の寛大さに感心しつつ、小春を連れて屋上に向かった。
「へー、珍しい。今日はちょっと寒いからかな?」
屋上には、誰もいなかった。
その事が俺に確信させる。
俺は選択肢を誤らなかったと。
天木先生が岡崎さんをそそのかして小春を殺させるという一連の犯行は既に食い止められたのだと、この時理解した。
しかし……。
俺にとって昨日である2月14日の出来事が頭をよぎる。
昨日、ここで小春は刃物を持つ犯人に対して凶行を受け入れる様な態度を示し、俺たちが犯行を防いだあと自ら死を選んだ。
あの時の血の匂いと感触が蘇る感じがして、俺は肩を震わせた。
「悠斗、寒い?」
俺の態度に気付いた小春がやんわりと気遣ってくれる。
「……大丈夫だ」
昨日の瞳の輝きを失った小春と、今の何も知らない小春が俺の中で重なる。
確かに、正直キツいかもしれないな。眼の前で死なれた相手に優しくされるってのは。
俺は気持ちをごまかす為に強引に小春の手を取り、ベンチの隣に座らせた。
さて、どうしたものか。
俺は小春に、未来から来た事を教えていない。
この事件のあらましも、待ち受けていた運命も、教えるつもりは無かった。
この二日間をこれ以上ループさせるつもりはない。
例え俺が死んだとしても、誰かが傷ついたとしても、それがきっと人生って奴なのだから。
俺たちは、幼馴染としてのこれまでの事と、明日よりも更に後の事を、ゆっくりと話しあった。
それと、明日のバレンタインデーの事も。
「明日は、俺たちにとって特別な日にしような、ハル」
「……うん。ありがとう、ユウ」
来年になればまたバレンタインデーは来る。
だけど、同じバレンタインデーは2度こないのだから。
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