Scene39. 2月13日 (5週目) 朝1

 俺は友人の森谷と通学路で合流し、放課後にカラオケに行く約束をした。

「あのさ……、森谷」

 森谷と肩を並べて歩きながらも俺は早々に森谷を仲間として引き込むために話を切り出した。

「お、なんだなんだ?」

 森谷はいつも通りの軽いノリで応じる。

 俺は明日起きる事件について話そうとして、止めた。

 明日は何も起こさせない。

 だから、起きもしない事件の事を伝えても余計な恨みを残すだけだ。

「今日のカラオケ、女の子誘わないか?」

 俺がそう言った瞬間の森谷の眼の輝き様は、まるで砂漠でオアシスを見つけた旅人のようだった。

「城之内、お前もついにそういう事を言うようになったか!」

 立ち止まって俺の肩をがしっと掴む森谷。

「俺は嬉しいぞぉぉぉ!」

 そして森谷はそのまま抱きついてくる。

 暑苦しい。

 きもい。

 俺は森谷を振り払って落ち着かせる。

「落ちつけ森谷。俺は小春……宮間さんを誘うから、お前は岡崎さんを誘ってくれないか」

「お、お前……それ……」

 森谷は露骨に後ずさり目を見開く。

「最っ高だな!」

 そして満面の笑顔でオーバーリアクション気味に親指を立てて賛成してくれた。

 相変わらず、ノリのいいやつで助かる。

「でも意外だな、城之内があの子……なんだっけ、宮間さん? を誘いたいなんて」

「そうか?」

「お前さ、いつもずっと宮間さんのこと見てただろ。声もかけずに」

「そうだったか? あいつが俺の事ばかり見てるって思ってたけど」

「そりゃお前、お前がずっと見てたらそのうち目が合う事もあるだろうよ」

「確かに、一理あるな」

「だからよ、お前があの子に片想いしてるんだなーってずっと思ってたワケ」

「は? いやいや、ありえねえよ。ただの幼馴染だ」

「そうだったのか!? その割には、なんかもう、距離あるって感じだな」

「まぁな。色々あって」

「あ、わかったぞ。お前、明日のバレンタインデーに期待してるんだろ?」

「誰がそんな……」

 俺は茶化されて否定しようとしたが、よくよく自分の心に問いかけてみれば、

「そうかもしれない」

 そう言える気がした。

 森谷と話しながら学校に着き、玄関で靴を履き替えてそこで森谷とは別れた。

 俺は見届けないといけない。

 小春と天木先生の会話を。

 このループの殺人事件の発端となったはずの、最大の要因を。


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