Scene35. 2月14日 (4週目) 昼1

「城之内、パン買ってきたぜ」

「おう、ありがとうよ」

 昼休みになると、購買で俺の分まで総菜パンを買ってきてくれた森谷が俺の席に来た。

 予定ではこの後に小春が来ることになっていたのだけれど、5分待っても小春は来なかった。

「どうした? 城之内、難しい顔して。小春ちゃん先にどこか行っちゃったんじゃないか?」

 森谷が空腹を訴えるようなボディランゲージを交えつつ教室を見まわす。

「おかしいな。どこで選択肢を間違えたんだ?」

「あ? 選択肢? おまえエロゲーは脳内だけにしておけよ! ハハッ」

 うっかり口に出した言葉で森谷に笑われた。

 どうしたものか。

 とりあえず俺は森谷を引き連れて小春の教室に向かう。

 しかしやはりそこには小春の姿は無かった。

「城之内、小春ちゃんの苗字って何だ?」

「何だ急に? 宮間……宮間小春」

「オッケ!」

 森谷は軽い足取りで小春のクラスの女子に近づき、2~3言交わして帰ってきた。

「他のクラスの子に誘われて昼飯行っちまったってよ。コートを持っていったからたぶん屋上だとさ」

 事も無げに森谷は言った。

「……すごいな森谷。見なおしたわ」

「あん? ふつーだろ、これぐらい。まぁ城之内には難しいかもな」

 森谷がチャラいおかげで話が早くて助かる。

 俺は森谷に従って屋上へ向かった。

 本当に、どこで選択肢を間違ったのか。

 そんな事、考えたって俺には分からなかったはずだ。

 俺が自ら進んで間違える方を向いていたのだから。

 何の気も無しに俺が屋上の扉を開ける。

 そこにはまさに最悪の状況が待ち構えていた。

「小春っ!」

 俺は、屋上の真ん中で両手を開いて立っている小春を呼ぶ。

 俺と小春の間を遮るように立っている後姿は、おそらく岡崎さん。その足元には黒い紙袋。その手にはナイフ。腰を深くかがめて、今にも小春に向かって走り出しそうだ。

「岡崎さん!」

 森谷が叫ぶ。

 岡崎さんは振り返る気配も見せない。

 何より不審なのは、小春のポーズだ。

 なあ、お前。なんで、手を広げて立っている?

 ナイフを片手に構えている奴を眼の前にして……。

 それじゃあまるで、全てを受け入れる態度にしか見えないぞ。

 ははは。

 何やっているんだ、小春は。

 何やっているんだ、俺は。

「……岡崎ィィィッ!」

 俺は叫び声をあげて走り出した。


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