Scene34. 2月14日 (4週目) 朝2
「だから、岡崎さんには諦めてもらうつもりなんだ」
人の気持ちを分かった上でもてあそぶ最低な自分に辟易する。
だけど、小春を救うためなら俺はどんな他人も利用するつもりだった。
「森谷には、岡崎さんのケアをして欲しい。俺からも岡崎さんに勧めておくから。森谷のこと」
「マジか! うおおおおおおおおおっ!!」
雄たけびを上げて森谷が立ち上がる。
周囲の目が、ひたすら痛かった。
森谷は気付いていなかったが、その後ろを岡崎さんが早足で駆け抜けて行った。
俺はそれを横目で確認する。
凶器が入っていたという、黒い紙袋を大事そうに抱えていた。
森谷は俺の肩を抱き、泣いて喜んだ。
「城之内、お前さあ、良い奴だよ。ホント。岡崎さんの心を弄びやがって殺してやろうかとも思ったぐらいだったけどよぉ!」
悪い冗談にしか聞こえないぞ、それ……。
「森谷、岡崎さんのチョコ貰えると良いな!」
「そうか! 良いトコロ見せたら貰えるかもしれないもんな!」
「じゃあ、頼んだぜ。森谷!」
「任せとけって! 悪いようにはしねえよ。城之内のカノジョにヨロシクな!」
「バカ、まだカノジョじゃねえって!」
「わははは、そうかそうか!」
「わははははは、そうだとも!」
俺と森谷が周囲の目をはばからずに笑い転げていると、玄関で靴を履き替えた小春がこちらを見て硬直しているのが見えた。
「あ、小春。おはよう……聞いてた?」
「よっ、また会ったね。小春ちゃん」
肩を抱き合っていた俺たちはお互いの距離の近さに気付いてバッと離れて平静を装う。
「おはよう、悠斗。森谷君」
「おおっ、小春ちゃん! 昨日は楽しめた?」
森谷が無遠慮に気安く声をかける。
その瞬間、小春の顔が真っ赤になった。
昨日……昨晩の事を思い出してしまって俺も顔が熱くなる。
「まさか悠斗……昨日の事ぜんぶ森谷君に話しちゃったの!?」
小春が俺に詰め寄る。
「は、話すわけないだろ!?」
俺は慌てて否定する。というか、察しのいい森谷の前でそんな迂闊に反応したら……。
「お前ら、仲良いんだな……」
森谷は、菩薩のような慈愛と慈悲に満ちた顔をしていた。
「とにかく、森谷はもう味方だから、大丈夫だ」
俺は小春を何とかなだめて、言い聞かせる。
「味方? なんだそりゃ」
森谷が後ろで不審がっている。
そういえば森谷には今日の事件の事を説明していなかったな。
説明する必要もない。今日は何も起こさせないんだから……。
そう思った俺は、なんて迂闊だったのだろう。
安心しきっていて、小春の表情が曇ったことにすら気付かなかったんだ……。
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