Scene33. 2月14日 (4週目) 朝1

 そびえ立つ校舎を眺めて俺は決意を新たにする。

 やらないといけない事は2つ。

 1つ、岡崎さんの凶行または自害を防ぐ事。今回は小春に対する殺意をなんとか削いで、凶器も取り上げないといけない。

 2つ、友人の森谷を極力味方につける事。岡崎さんの身に何かあった時に誰かに殺意が向かないように。

 元凶となった天木先生の事はこの際、放っておこう。

 女子高生に冷たくされた腹いせに女子高生をそそのかして殺人を犯させるような最低な奴だけど、何も起きなければ何も咎める事もできなくなるのだから。

 俺はまず、森谷を懐柔する事を目論む。

 うまくいけば岡崎さんの事を引きとめて監視してくれるかもしれない。

 森谷は今日は早く学校に居るはずだ。

 なぜなら今日はバレンタインデーだから……。

 俺が校舎の中に入ると、期待通りに森谷が玄関の下駄箱前の廊下に隠れていた。

「……何やってるんだ、森谷」

 分かっているけど、一応聞いてやる。

「おわっ、城之内! バカ、声かけてくるんじゃねえよ! 見つかったらどうするんだ!」

 森谷は誰からも見える様な消火栓の陰で身をかがめている。

「見つかるって、誰にだよ」

「ンだよ、いちいち説明しないと分からないか? 今日はバレンタインデーだぞ?」

「うん、だから?」

「誰かが俺の下駄箱にチョコレートを入れてくれるかもしれないだろ!?」

「可能性は無くはないな?」

「その奇跡の瞬間を見届けたいんだよ! それぐらい夢見たっていいだろぉ!? うっ、グス……」

「いや、うん。わかった。分かったから泣くな」

「分かってくれるか!」

「あぁ。分かる。お前すごいバカなんだなって」

「……チッ」

 森谷は俺の言葉責めにもめげずに下駄箱の監視を続ける。

 仕方ないので俺も一緒に隠れて話を続ける。

「森谷、アテはあるのか?」

「無くっても誰か一人ぐらい気まぐれで入れてくれるかもしれないだろ!」

「岡崎さん一筋じゃなかったのか?」

「バカな……何故それを!? 城之内、お前エスパーか!?」

「岡崎さんが俺に気がある事も、気付いてるんだよな?」

 森谷は少し怒気混じりの真剣な顔をする。

「……当たり前だ。だからお前が小春ちゃんとくっつけば良いって応援してるんだぜ?」

「俺、小春と付き合う事にするんだ。今日、告白しようと思ってる」

「マジか……」

 森谷は、呆気にとられた様な、ほっとした様な表情を見せる。

 分かりやすくて助かるぞ、森谷。

「だから、岡崎さんには諦めてもらうつもりなんだ」

 人の気持ちを分かった上でもてあそぶ最低な自分に辟易する。

 だけど、小春を救うためなら俺はどんな他人も利用するつもりだった。

「森谷には、岡崎さんのケアをして欲しい。俺からも岡崎さんに勧めておくから。森谷のこと」

「マジか! うおおおおおおおおおっ!!」

 雄たけびを上げて森谷が立ち上がる。

 周囲の目が、ひたすら痛かった。

 森谷は気付いていなかったが、その後ろを岡崎さんが早足で駆け抜けて行った。

 俺はそれを横目で確認する。

 凶器が入っていたという、黒い紙袋を大事そうに抱えていた。

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