Scene30. 2月13日 (4週目) 夜

 俺と小春と森谷の3人はゲーセンでひとしきり遊んだ後は駅前のファミレスで夕食をとった。

 森谷がドリンクバーで作ったドブ川みたいな容赦無いミックスジュースを飲まされて、小春は実に楽しそうに困っていた。

 駅前で森谷と別れた後は、家が隣同士な俺と小春は同じ方向に歩いた。

 小春は妙に上機嫌で、ニヤニヤと笑いながら弾むように歩いている。

 たまにフフフと声が漏れた。

 時おり、ウヘヘと声が漏れた。

 俺は小春とどう接したら良いものか考えあぐねていた。

 そんな俺を看破したのか、小春はうすら笑いを浮かべながら俺の横に並び、手を振り歩くのに合わせて手を掴んできた。

「お、おい……」

「いいから、いいから」

 小春は掴んだ手を離すつもりはないらしい。

 仕方なく、否ありがたく俺は小春と手を繋いだまま街灯がまばらな暗い道を歩いた。

 小春の手は冷たい。

 少しでも温めてやろうと、小春の小さな手を包むように手を繋ぎ直した。

「ユウ……」

 小春に呼ばれても俺は恥ずかしくて小春の顔を見られなかった。

 やがて俺の家の前に辿り着く。小春の家は隣だ。

 なんとなく手を離すのを惜しんでいると、小春は俺に掴まれたままの手をグイグイと引っ張って小春の家の玄関まで俺を引き込んだ。

「上がって。うちのお母さんたち、帰り遅いはずだから」

 小春は俺の顔を見ずに鞄から鍵を取り出して玄関の扉を開けた。

「いいのかよ?」

 俺はためらいがちに言った。

 もちろん、小春の家に上がらせてもらうのは嬉しい事だ。

 俺も子どもの頃は小春の自室にまで入れてもらえていた。

 それまでは一緒に遊べていたのに、急に拒まれた俺は小春を避けるようになって……。

 あぁ……そんな事で俺は。

 当時の俺はわけも分からずに、不貞腐れていた。

 両親からは「ハルちゃんも大人になったからね」と諭されていたが、俺を取り残して一人で大人になってしまった小春を恨んでいたものだ。

 久しぶりにお邪魔した小春の家は、間取りこそ変わっていない物の、記憶にある家具や小物などは一新されていた様だった。

 リビングでお茶でもごちそうになろうかというつもりでいた俺は、小春に手を引かれてそのまま小春の部屋へと案内された。

 子どもの時とは違う、異性の匂いがする部屋になっていた。

 充満する小春の匂いに心臓が高鳴っている所に、カチャリと鍵の閉まる音が聞こえた。

 小春が後ろ手で部屋の扉を閉めたのだ。

 小春は潤んだ瞳で、どこか遠くを見るように俺に視線を向けてほほ笑んだ。

 釣られて俺もほほ笑む。

 そして小春は、うわ言のようにささやいた。

「ユウ……、えっちしよっか」


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