Scene29. 2月13日 (4週目) 夕方

 学校を出た俺たち3人は地元の駅の近くにあるカラオケ店に入った。

 小春は部屋に入るとキョロキョロとあたりを見回したり、物珍しげにマイクを手に取って眺めたりしていた。

「あれー、小春ちゃん。こーゆートコ来るの初めて?」

 森谷は小春と俺を交互に見ながら言う。

 何だその目は。

 やめろ、言外に「たまには連れてきてあげた方がいいぞー」って言っているみたいな態度は。

 森谷が流行りの歌を唄っている間に、俺は小春にリモコンの操作を教えてやる。

 小春は好奇心に目を輝かせながら俺の説明に何度も相槌を打つ。

 本当に楽しそうだ。

 しかし、と俺は思う。

 小春は明日自分が殺されると言っていた。

 それなのにどうしてこんな呑気にしていられるのか。

 そもそも、小春から聞いた話だと今日はカラオケには行かないはずだ。

 何故わざわざ、繰り返しの2日間で起きた事と違う事をしているのか。

 俺には理解できなかった。

 死ぬ覚悟をした上で、人生のやり残しを少しでも解消しようとしている女の子の気持ちなんて、理解できなかった。

 小春は初めてのカラオケを満喫した後、ゲームセンターでクレーンゲームを楽しんだ。

 もちろん、小春の性格上こんな場所にこんな時間に制服姿で遊びに入るなんて普段ならあり得ない事だ。

「先生に見つかったらどうしよう……なんてねっ」

 今まで真面目に過ごしてきた小春にとっては未経験であろうスリルを楽しんでいる様子だった。

 半ば自棄になっているのかもな。

 俺はそんな事を考えながら小春にあわせてゲームを楽しんだ。

 ガンシューティングを小春に勧めて、二人で協力プレイをした。

 これまで100円で行ける所まで楽しんでいた物を、俺は何故か今日に限って何回もコンティニューしてクリアする所まで満喫した。

 汗をかきながら興奮していた小春が、ゲームクリアで頬を上気させながら感極まって俺に抱きついてくる。

 こんな風にデートできたら楽しかっただろうな、と俺は心の底から思った。

 明日小春が死んで俺が過去に戻ったら、こうやって遊んだ事も小春は思い出せないのだ。

 俺は汗が目に入って痛がる振りをしながら、そっと自分の目元の雫を拭った。


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