第3章【悠斗】 それでも俺は、救いたい

Scene25. 2月13日 (4週目) 朝

 俺の名前は城之内悠斗。

 白籤高校の2年A組。

 今日は2月13日、木曜日。

 時刻は……8時24分になった所だ。

 俺はその日の朝、友人の森谷と通学路で会い、放課後にカラオケに行く約束をした。

 それ以外は特に何もない、いつもと変わらない平日を過ごすはずだった。

 はずだったのだが。

「悠斗!!」

「小春? な、なんだよ! うわっ!」

 学校の下駄箱の前を通りかかった所で、幼馴染だった宮間小春に突然手を掴まれて廊下を引きずられるように走らされた。

 露骨に聞こえた舌打ちに目をやると、俺のクラスの担任の天木先生が憎たらしげにこちらを見ていた。

 天木先生は女子にだけ優しいと評判の嫌な教師だった。そして執念深い事でも知られている。

 面倒なことに巻き込まれなければいいなと思いつつ、俺は体勢を立て直して小春と並走した。

 小春は、思い込んだら一直線なタイプだ。

 いやむしろ自分の思いの丈を詰め込んでハンドルを握らずにエンジンを全開にする奴だ。

 だから小春の話を聞いていると、いつの間にかあらぬ方向に誘導されているなんて事が多々ある。

 ……こいつの話を聞くときには、気をつけなくちゃいけない。

 俺が小春に手を引かれたまま連れ込まれたのは、ひと気の無い美術準備室だった。

 小春はその部屋に入った時、床や壁を見回してあからさまに安堵したような溜め息をついた。

 何だ?

 そして振り返った小春の目は涙を湛えて潤んでいた。

 小春は、フッと視線を右にずらしてから俺に向き直り、ためらいがちに抱きしめてきた。

 今日の小春は何だかおかしい。

 普段から俺を遠巻きに見ているのとは違う、どちらかといえば慈しみの表情をしていたんだ。

 小春の意図を推察しようと俺はそのまま抱かれたままになる。

 首元に当たる硬い感触は小春がネックレスか何かを付けているからだろうか。

 小春の方にも相当食いこんでいるはずなのに、それさえ気にも留めないように小春は俺を抱きしめ続けた。

 そして始業のチャイムが鳴る前にようやく言葉を紡いできた。

 過去に聞いた言葉をたどる様な言い方だった。

「……守るから」

 何を? とは聞き返さずに次の言葉を待つ。

 小春は俺に懐かしい呼び方で、こう言った。

「ユウが守りたかったバレンタインデーを、私が守るから」

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