Scene23. 2月14日 (2週目) 放課後2
「小春っ!」
頭上から悠斗の声が聞こえる。
刃物で脇腹を刺され、そのまま真横に切り抜かれていた。
私は床に倒れた。
制服の腰のあたりがじんわり濡れていく感覚が気持ち悪いと思っていた。
そんな私を悠斗は血だまりの中から抱きあげようとする。
ダメだよ悠斗。
私の血で汚れちゃうよ。
「岡崎さん、なんて事を……」
準備室の中では森谷君がナイフを構えた可奈子ちゃんと対峙していた。
「私にもわかっていたわ……こんなことしても意味無いって」
可奈子ちゃんの声は震えていた。
「言われるままに……小春ちゃんを殺したって……城之内くんは私の物にならない……」
可奈子ちゃんは床に伏せる私と、介抱する悠斗を一瞥した。
「こんなことするぐらいなら、はじめっからこうしていれば良かった!」
そして可奈子ちゃんは両手をナイフに添え、首を真横に撫でた。
鮮血の噴水が、夕日の差し込む準備室に照らされ舞い散った。
あぁ、まただ。
赤。
赤赤赤。
赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤。
真っ赤なペンキのようなドロドロのものが美術準備室を一瞬で染める。
防げなかった。
その後悔が私の胸をチクリと痛めた。
「あ、あああ! 岡崎ぃっ!」
森谷君が駆け寄るけど、多分もう無駄と悟ったのか抱き起そうとはしなかった。
「うぅ……ああぁ。そうだ、救急車……!」
森谷君は意外と冷静で、私をまたいで廊下へと駆け出していった。
美術準備室に残ったのは、ヒューヒューと首から息を漏らす可奈子ちゃんと、脇腹から中身が零れそうな私と、泣いている悠斗だけ。
そうだ。
私は悠斗を過去に送らないといけない。
これまで私たちが積み重ねてきた物を無駄にしない為にも。
「悠斗……」
私は悠斗の頬を撫でる。
悠斗は気付き、私の手を撫でる。
「キス……して……」
悠斗は一瞬ためらった。ひどいなぁ。
でも、私の最期のお願いと気付いたのか、優しく唇を重ねてくれた。
ふふっ、鼻息がくすぐったいよ。悠斗。
ごめんね、悠斗。さようなら。
私は悠斗の首に手を回して、あの二重螺旋のペンダントを付けてあげた。
「……これって?」
「そう。私が未来の悠斗から貰ったタイムマシン。それを握って、祈って。過去に戻りたいって」
「……分かった。今度は俺がハルを助ける番だな」
悠斗はペンダントを握って瞳を閉じる。
……行ってらっしゃい、悠斗。
どうか私たちを、助けて。
ペンダントが淡く光る。
そしてその光が消えた時には、ペンダントも消えていた。
×××
「……!?」
悠斗は、ペンダントを握っていたはずの手を何度も見る。
「なんだよ、これ……失敗したのか?」
悠斗は青ざめて私を見る。
「大丈夫、昨日の悠斗は……ちゃんと今の事を……思い出してるよ」
「どういう事だよ……」
「過去に戻ったのは、記憶だけ……」
私は何だかものすごく眠くなってきた。
悠斗が耳元で叫んでいる。
でもごめん、もう聞こえないや。
こうして私は悠斗を過去に送り届けて、自分の役目を終えた。
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