Scene21. 2月14日 (2週目) 昼

 昼休みの時間が来るまで、私はずっと気が重かった。

 鞄の中には悠斗に渡すはずだったペンダントが残っている。

 早く渡してしまいまいたい。

 そう思って、私は昼のチャイムが鳴るとすぐに悠斗に会いに行った。

 ペンダントの箱をポケットにそっと忍ばせて。

「悠斗、行こう」

 私がお弁当を持って悠斗を誘いに行くと、そこには既に先客がいた。

「おっ、小春ちゃん! やっぱり来たな」

「小春、森谷も一緒で良いか?」

 悠斗の席には既に2人分の総菜パンが入ったビニール袋が置かれている。

「こ、こんにちは」

「そんなに怯えるなって! 城之内には手を出したりしねえよ」

 森谷君はへらへらと笑っているけれど、私は不安で仕方なかった。

「小春、もしもの事があった時に男手があった方が良いだろ?」

 悠斗は完全に森谷君の肩を持っているようだった。

 私はポケットの中の小さな箱の表面を撫でる。

「うん、わかった。いいよ、一緒に行こう」

 箱の表面がひどくザラついているように感じた。

「どこで食べるの?」

 先行する2人に私は後ろから声をかけた。

 男子の背中が前に2つ並んでいると、廊下の前が見えない。

 それでもなんだか大きな壁に守られているようで、こそばゆかった。

「屋上だ。誰かが早まった時にすぐに止められるようにな」

 なにか含みのある言い方で悠斗が先導している。

 私は他に代案もないので黙って従った。

 屋上。

 今日も昨日と同じく肌寒い。

 この季節、風が吹き抜ける屋外でわざわざお昼を食べる人はあまりいない。

「あー、ははは! やっぱり寒いなぁ!」

 森谷君は肩をすくめて震えながら焼きそばパンにかぶりついている。

「小春、間に入れよ。ちょっとは風がしのげるぞ」

 悠斗は並んで座っていた森谷君からちょっと間を開けて、私が座れる場所を作ってくれた。

 確かに暖かい。男子2人の間に挟まれていても、やっぱり風は防げそうになかった。

「城之内、岡崎さんくるかな?」

 森谷君が私の頭ごしに悠斗に話しかける。

「わからない。でも、来たとしても……」

 と、そこに。

 可奈子ちゃんはやってきた。

 あの黒い紙袋を握りしめて。

「……最低よ、貴方」

 可奈子ちゃんは、男子2人に囲われて座っている私を真っ直ぐ見てそう言い、すぐに校舎の方に戻ってしまった。

 少なくとも、飛び降りたりする程は思いつめていない様子だった。

 でも、あの目……。

 あんなに怖い目をしている可奈子ちゃんを、私は見た事が無かった。


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