Scene20. 2月14日 (2週目) 朝2
「話しかけてこないで、この……裏切り者」
呆気にとられる私を置いて、可奈子ちゃんはスタスタと校舎の方へ歩いて行く。
普段は持っていない黒い紙袋をきつく握りしめながら……。
私は可奈子ちゃんを追いかける事もできず、重い足取りのまま校舎に入る。
下駄箱で上履きに履き替えた所で、意外な光景が目に入ってきた。
「じゃあ、頼んだぜ。森谷!」
「任せとけって! 悪いようにはしねえよ。城之内のカノジョにヨロシクな!」
「バカ、まだカノジョじゃねえって!」
下駄箱前の廊下で仲良く笑いあっている悠斗と森谷君の姿があった。
前回の今日、悠斗と森谷君の喧嘩を思い出して固まっていた私に、2人は同時に気付いたようだった。
「あ、小春。おはよう……聞いてた?」
「よっ、また会ったね。小春ちゃん」
2人はどう見ても、これから殺し合う様な関係には見えなかった。
悠斗が言っていたように、本当にただの友達に見える。
「おはよう、悠斗。森谷君」
「おおっ、俺の名前わかる?」
森谷君は何だか妙に高揚している。そして馴れ馴れしい。
本当にこんな人が今日悠斗を殺すの?
もしかしたら、こうやって気を許して油断した所を……なんて事もあるかもしれない。
警戒しておかないと。
「小春、森谷は大丈夫だ。あとは岡崎さんだけだ」
「まったくよ、冗談キツいぜ? 俺が城之内を殺すだなんてよ」
2人は妙に楽しそうにしている。
それに森谷君は『俺が城之内を殺す』と言った。
「まさか悠斗、あの事ぜんぶ森谷君に話しちゃったの!?」
私は悠斗に詰め寄る。
何てこと?
まさか犯人に自分たちの手の内を明かしてしまうなんて!
「話したよ。その為に今日は早めに家を出たんだ」
「どうして!? 危ないじゃない!」
「小春、森谷が俺を殺したがってるように見えるか?」
悠斗はアゴで森谷君を指す。
森谷君はへらへらと笑っているだけだ。
「大丈夫そうだろ? 今回は俺は岡崎さんを死なせない。だから森谷は俺を殺さない」
「おい城之内、冗談でも岡崎さんの事を死ぬとかそんな風に言うなよ?」
「ああ、スマン。今日の事が終わったらちゃんと取り持ってやるから」
「……約束だぞ?」
悠斗は完全に森谷君の事を信じ切っているようだった。
そんな。
私には訳が分からないよ。
悠斗を殺されて、悲しくて悔しい思いをいっぱいしたのに。
「もう、いいよ……」
私はひとりで取り残されてしまった気がして、悲しくなった。
悠斗が自分の力で森谷君を説得できたなら、私も自分の事は自分でしなきゃ。
可奈子ちゃんと、しっかり話をしよう。
森谷君みたいに分かってくれるはず。
そうなんだよね、悠斗……?
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