第2章【小春】 君が守りたかった世界

Scene14. 2月13日 (2週目) 朝

 私はゆっくりと目を覚ました。

 あれ、いつの間に寝ちゃったんだろう……。

 そんな事を考えて身体を起こすと、何かひんやりした物が胸元の素肌をくすぐった。

「ん……なんだっけ」

 私がそのペンダントに触れた瞬間、先刻までの光景が鮮明に脳裏に蘇った。

「……ッ!」

 私は思い出してしまった。

 真っ赤な部屋の中で横たわる悠斗の姿を。

 私は過去に戻りたいと願い、そのまま意識を失ったのだ。

 慌てて机の上のスマホを掴み、確認する。

 2月13日。

 良かった、帰って来られた。

 私はペンダントを握りしめる。

「今度は私が悠斗を助ける番だね……」

 私は呟く事で決意を新たに、強固にした。

 今すぐにでも私は悠斗の安否を確かめたかった。

 すぐ隣の家に居るのだから、ちょっと訪ねて会う事もできた。

 でも私はそれをしない。

 一昨日の私はそんな事をしなかったはず。

 世界に何が起きているのかも知らず、普通に学校に行っていたはずだ。

 前回と同じ事が起きるなら、何か対処のしようもあるかもしれない。

 だから私は、まずはいつも通りの生活をして明日に備える事にした。

 服を着替え、朝食を食べ、お母さんが作っておいてくれたお弁当を持って学校に行く。

 家を出た所で悠斗の家を見上げたけど、これぐらいは別にいいよね。悠斗。

 それからは特に何の事件も起きずに、すんなり学校に着いた。

 時刻は8時22分。

 ホームルームまであと少し時間がある。

 前回は悠斗に引っ張られて美術準備室に行ったんだよね。

 あの時は何が何だか分からなかったけど、まさかあの場所であんな事が起きるなんて……。

 そんな事を考えながら下駄箱の前で靴を履き替えていると、やっぱり今日も声をかけられた。

「宮間さん、宮間小春さん」

 天木先生だ。バレンタインデーのチョコレートの催促に来たのだろう。

 なんて呑気な。

 明日はバレンタインとかチョコレートとか、そんな事で浮かれる事もできない日になるというのに。

 うんざりしながらも笑顔で対応しようとした。

 その時、視界の端に懐かしいあの顔が写った。

 ……悠斗!

 その顔が私に気付かずに通り過ぎてしまう。

 居ても立ってもいられなくなり、私は慌てて悠斗を追いかける。

 背後から舌打ちが聞こえたような気がしたけれど、私はすぐに考えるのをやめた。

「悠斗!!」

「小春? な、なんだよ! うわっ!」

 私は悠斗の手を掴んで走り出した。

 運命と同じ事をしなければという思いと、あの美術準備室に何もない事を確認しなければという思いが重なって、私はその場所に導かれた。

 美術準備室。

 何もない。

 赤いペンキの水たまりも、体温を失っていくあの人の姿もない。

 良かった……。

 安心感が胸いっぱいに広がる。

 それで、あの時私は悠斗にどんな事をされたんだっけ?

 思い出を手繰り寄せながら、困惑する悠斗をきつく抱きしめる。

 そうだ、この体温。

 ……温かい。

「……守るから」

 私はこの人を守りたい。

 自然と、想いが口から溢れた。

「ユウの事、絶対殺させたりしない」


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