Scene09. 2月14日 朝

 通学路。

 こんな風に悠斗とまた歩けるなんて、思ってもいなかったな。

 期待もしてなかったかもしれないけど。

 悠斗は相変わらず、ピリピリしていた。

 もしも私が今日、生き残る事ができて、悠斗にチョコレートを渡せたら、明日からは2人で楽しく登校できるのかな。

 やっぱり私はまだどこか呑気なのだと思う。

 だからちゃんと教えて貰わないと。

 ……私が、どうやって殺されたのか。

 意を決して私が悠斗に話しかけようとした所で、意外な人が声をかけてきた。

「おはよう、城之内くん……小春ちゃん……」

 それは、可奈子ちゃんだった。

 昨日の事を気にしてか、こちらを気遣うように声をかけてくれたみたいだった。

 それで悠斗の顔が一層険しくなる。

 でも、可奈子ちゃんは不思議そうな顔で小首をかしげるだけだ。

 本当に、この可奈子ちゃんが私を殺すの?

 ちょっと気弱そうな、でも優しい女の子が?

 可奈子ちゃんとは去年同じクラスで、とても仲が良かった。

 クラスが変わった今でも一緒に遊びに行くぐらい仲が良い。

 私は、そう思っている。

 それに今の可奈子ちゃんが私を見つめる目には、殺意なんて全然感じられない。

 いつも通りの優しい目をしている。

「おはよう、可奈子ちゃん」

 私はいつも通りに挨拶をしてみた。

「お、おいっ」

 悠斗は慌てて私の袖を引っ張る。

「なによ、まだ例の事件が起きる時間じゃないんでしょ?」

 可奈子ちゃんに聞こえないように悠斗に耳打ちする。

「そう……だけど」

「それに、あんまり普段と違う事をしない方が良いよね?」

「それは、まあ……」

「だから、後でちゃんと教えて? 今日は何が起きるのか」

「……わかった。昼休みになったら全部教える。それまでは何もするなよ?」

「約束ね」

 私たちが密かに会話をしている所に、可奈子ちゃんが後ろから声をかけてくる。

「2人って……仲が良いのね」

 その表情は、やっぱり変わらない。

 優しい頬笑みをしていた。

 私たちは何か自分たちの後ろ暗いところを見透かされた様な気持ちになって、寄せていた体を離した。

「あは、あはは。家が隣同士だからね。私と悠斗は」

「……そう、そうだったの。ごめんなさいね、邪魔をしてしまって」

 可奈子ちゃんは優しい笑顔のまま、先に学校の方に早足で行ってしまった。

 普段は持っていない赤い紙袋をきつく握りしめながら……。

 私たちが学校に着くと、校内の空気は妙に浮かれていた。

 それもそのはず、今日はバレンタインデーなのだから。

 女の子たちは小さな紙袋何かを持って玄関の下駄箱前をソワソワと行き来していた。

「ん、なんだろう?」

 私が靴を履き換えようと下駄箱を開けると、小さな紙がパサリと落ちてきた。

 拾い上げると、それは朝の自宅で見た物によく似たコピー用紙の手紙だった。

 中を確かめる。


『場所を変えよう

 今日の昼休み

 美術準備室で待つ

 城之内』


 私はすっかり呆れてしまった。

 屋上だったり、美術準備室だったり、随分いい加減な悪戯だなあと思った。

 手紙を見ていると、靴を履き替えた悠斗が寄って来たので慌ててその手紙も鞄にしまった。

 大丈夫、変な悪戯には引っかからないよ。

 私は悠斗を見て、固く誓ったのだった。


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