Scene08. 2月14日 早朝
ヴヴヴ、ヴヴヴ、
机の上でスマホが動いている。
「もう、こんな朝に……何?」
メールだ。悠斗から。
差出人の名前を見て、ハッと意識が覚醒する。
何だか悪い夢でも見た気分だった。
今日、私が殺される?
いつどこで、どうやって?
悠斗は守ってくれるって言ってくれたけど、やっぱり私は今日何が起きるのか知りたい。
よし、決めた。
後で悠斗に全部話してもらおう。
私がどうやって死んだのか。殺されたのか。
そうじゃないと、もしもの時に対処できないかもしれないし。
悠斗からのメールは、簡潔だった。
『一緒に登校しよう』
うん、私もそのつもりだったよ、悠斗。
部屋のカーテンを開けてふと窓の外を見下ろすと、家の前の道路に人影があった。
それは私が顔を確認するよりも先に曲がり角の方へ身を滑り込ませてしまっていた。
カーテンが開くのに合わせて身を隠した様な、そんな動きだ。
……まさか、犯人!?
でも、悠斗は可奈子ちゃんが犯人だって言っていた。
今そこに見えたのは女子みたいな小柄な体格じゃなかった。
どうなっているの?
怖いよ、悠斗。
ちゃんと守ってよ……。
私は震える手でパジャマを脱いで制服に着替える。
ダイニングに行くとお母さんが朝食を作り置きしておいてくれたみたいだった。
「お母さん、もう仕事に行っちゃったのかな」
私のお父さんは会社員で早朝から出勤している。お母さんはパートタイマーで、出かける時間は日によってまちまちだ。
「今日ぐらい家にいてくれたら良かったのに……」
ひとりで呟いても、応えてくれる人なんていなかった。
朝食のパンとサラダと目玉焼きを食べてお皿を洗った私は、戸棚から紙袋を取り出す。
今日は2月14日、バレンタインデーだ。
この日のためにずっと前から買い置きしていた。
誰に渡しても良いように、同じものがいくつか入っている。
ひとつだけ取り出してお父さんの席に置いた。
なんだか時間が淡々と過ぎていく。
もう嫌だ。
早く悠斗に会いたい……。
変なの、一昨日までは悠斗の事なんてもう気にもしてなかったのに。
「行ってきます」
靴を履きかえた私は誰もいない家の中に向かって声をかけた。
返事はない。
と、玄関に向き直ると扉の横のポストから何かが飛び出ているのが見えた。
「あれ、郵便? こんな時間に……」
不審に思いながらも私はそれを引っ張り出す。
それはコピー用紙にパソコンで印刷された簡素な手紙だった。
そこにはこう書かれていた。
『Dear 愛しの宮間さんヘ(はぁと
今日のお昼休み、屋上でまってるぜ(はぁと
城之内より(はぁと』
「ぷっ」
私は思わず吹き出してしまった。
一体何のいたずらだろう。
悠斗がこんな手紙を書くなんて、ありえない。
きっと誰かのいたずらだろうと1人で納得して、その手紙を鞄にしまった。
そして悠斗にメールをする。
『今から出るよー』
着信音が玄関の扉のすぐ向こうから聞こえた。
直後、インターホンが鳴る。
私が扉を開けると、安心できる顔がすぐそこにあった。
「おはよう、小春。それじゃあ行こうか」
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