Scene06. 2月13日 夕方2

「すっごい久しぶりだね」

「……何が?」

 お姉さんが持って来てくれたホットココアを飲みながら、私は悠斗の部屋をあちこち眺める。

「こうやって、悠斗の部屋に来るの。ちっちゃい頃はよくゲームしに来たよね」

「ああ。小春の部屋にも行ったな」

「そうだよねー。なんで最近は来なくなっちゃったんだろ?」

「小春が、部屋に来るなって言ったんじゃないか」

「へっ? そうだっけ?」

「そうだよ。女の子の部屋には見られたくない物があるんだから、とか言ってさ」

 ……あー、心当たりがある。

 たしか、ブラを初めて付けるようになった頃に、そんな事を言った様な、言わない様な。

「えーっ。でも、それなら悠斗の部屋に来るのは問題ないんだよね?」

「そうだよ」

「ほらほら。悠斗は何で部屋に入れてくれなくなったの?」

「……言ってない」

「えっ」

「……来るななんて、一度も言ってない。いつ来てくれても良かった」

「そう……だっけ?」

「俺が小春の部屋に行かなくなって、小春も来なくなった。それだけだろ」

「そっか、あはは」

 私はちょっと勘違いをしていたみたい。

 なんとなく、2人の関係が自然消滅していったと思っていた。

 でも、きっかけはあったんだね。

 それも、自分から悠斗を遠ざけていたなんて。

 すっかり、忘れていた。

 こんな事でも起きなきゃ、ずっと気付けなかったかもしれない。

「ねえ悠斗。私はまたこの部屋に来ても良いんでしょ?」

「あぁ、もちろん。明日、生き残れたらな」

 悠斗はすごく真剣な顔でホットココアを飲んでいる。

 そうだよね。私、明日死んじゃうかもしれないんだもんね。

 大丈夫だよ悠斗。

 悠斗が守ってくれるんだもん、私は絶対死なないよ……。

 大丈夫、なんだよね?

 でもちょっと、怖いな……。

 私はいつの間にか、不安で泣いてしまっていた。

 それに気付いた悠斗に、また抱きしめられる。

 今朝抱きしめられたのよりも強く、でも優しく。

 まだ制服を着替えていない悠斗に体を添わせると、胸のあたりが少し痛んだ。

 なんだろう、ネックレスかな。

 悠斗が身につけているアクセサリーが食い込んでちょっと痛い。

 私が身悶えると、悠斗はすぐに察して身体を離してくれた。

「悪い、これ付けたままだった」

 悠斗が制服の首元から見せてくれたのは、見覚えのあるペンダントだった。

 DNAの二重らせん構造をモチーフにした金と銀のプレートが折り重なっている物だ。

「14日に小春から貰ったペンダントだ。こいつのおかげで、未来からやって来れたんだ、きっと」

 それは、バレンタインデーのために私が悠斗へのプレゼントとして買った物とまったく同じだった。


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