美少女暗黒騎士、囚われる

「私が次の魔王って……どういうこと?お兄ちゃん」

「どういうこともない。テレパシーで送った通りだ」

「そんなの嫌。私は魔王になんてなりたくない!」


 魔王とその血族、そして雇われ魔王はテレパシーを使って交信が出来る。

 クロちゃんがお屋敷にやって来たあの日、私はお兄ちゃんからの連絡を受けた。


 その内容は「お前が次の魔王になれ」というものだった。

 もちろん私は魔王になんてなりたくはない。

 そして私が魔王に選ばれた理由が不本意なものだったことも含めてこうして実家まで抗議するために戻って来たのだ。


 お兄ちゃんに捕まる可能性が高い事をわかっていながら。


 最初は私もテレパシーで必死に断った。

 でもお兄ちゃんは聞く耳を持ってくれなかった上に、途中から私の呼びかけにも反応してくれなくなる。


 だからこうして直接話すしかなかったのだ。


「リリス。もう一度聞くが……お前は最近18歳になってサキュバスの力が使えるようになったはずだ。もう使ってはみたのか?」

「そんなの、私は使いたくなんてない!」


 実際はもう勇者様に対して使っちゃったんだけど、それは内緒。

 勇者様に使ってしかも効き目があったなんて事がわかれば、お兄ちゃんに捕まる可能性がますます高くなるから。


 いくらお兄ちゃんでも、普通に戦ったら勇者様には勝てない。

 だから私の持つサキュバスの力を使って、勇者様を操って支配するというのがお兄ちゃんの考えた勝ち方だった。


 サキュバスは「魅了」という、対象を誘惑して自分の虜にする技を操る。

 私たちの母親はサキュバスの女王だから、私は特にその強力な「魅了」の力を強く受け継いでしまったらしい。


 成人する18歳までその力が発現しないから忘れてしまっていたけど。


 勇者様は状態異常に対しても高い抵抗力を持っている。

 それでも、私の「魅了」は一時的にでも効果がある程に強力みたい。


「使いたくないとは言ってもだな、我々魔王軍がアディに勝てるとすればもうお前の力を使うしか方法は残されてはいない。お前は魔族が滅びてもいいのか?」

「勇者様は無闇に魔族を滅ぼすような方じゃないわ」

「ぬう……わからんやつめ。お前は新しいラーメンの味をこの世に広めていこうとは思わんのか?」

「思わないわ。ラーメン屋でも開いて地道に広めればいいじゃない。食べたくない人たちにまで無理に食べさせる必要はないはずよ。私は勇者様と一緒に、世の為人の為になることをしながら生きて行くの」

「このっ……まあいい。どうせお前は保険だ。私が開発した新しい技で勇者を倒せなかった時のな」

「何それ……さっきは私の力を使うしか勇者様に勝つ方法はないなんて言ってたじゃない」

「あれはお前を説得するための嘘だ。どうやらお前は何を言っても聞く耳を持たんようだからな……」

「……っ!!」


 嘘をばらしたという事は……!!

 私は危険を察知して部屋から逃げ出そうとした。

 でも、もう遅い。


 黒い糸の様なものに絡め取られて私は動けなくなってしまう。

 そして水晶の様なものに閉じ込められてしまった。

 

 お兄ちゃんは、別に誰も聞いていないのに「技」について語り始めた。


「冥土の土産に教えてやろう……冥土の土産……これを言ってみたかったのだ……アディの『すごい防御』はどんな攻撃であろうと全て防いでしまう。ならば攻撃ではない別のものでやつを倒せばよい……そう考えて作られたのが私の新しい『技』だ」

「攻撃ではない別のもの……?どういうことなの?」


 するとお兄ちゃんは、ずっとこの部屋のテーブルの上にあの銀色の丸い蓋を被せたまま置いてある何かの正体を私に見せて来た。

 私は思わず目を見開き、驚嘆の声をあげる。


「それは……まさか……」

「そうだ!この銀色の丸い蓋!結構探したのだ!何でもこれはクローシュと言うらしいぞ!ガッハッハ!」

「クローシュ……そんな名前だったんだ……じゃなくて!」

「クックック……驚いたか?これがあればお前の力などなくても勇者は思いのままよ!ワッハッハッハッハ!!!!」


 勇者様にこの事を伝えなきゃ……!

 そう思って抵抗するも、お兄ちゃんの魔法は強力で身じろぎすら出来ない。


「抵抗するだけ体力の無駄だ……やめておけ。お前には次期魔王としての自覚が芽生えるまで、ここで反省してもらおう!」

「お兄ちゃんの新しい技があっても勇者様には絶対に勝てないわ。勇者様には……必殺の『勇者アイ』があるんだから!」

「何……?何だその技は……聞いた事もないぞ……だがまあいい。そんなもの、使う前に潰してくれるわ!ガーッハッハッハ!」

「うう……勇者様……!」


 こういう風に囚われた時、物語に出て来るお姫様たちはトイレとかどうしていたのだろうと思いながら、私の意識は遠のいて行った。


 ☆ ☆ ☆


 中に入ると、そこには味噌ラーメン醤油味がいた。

 部屋の中は薄暗いが、それはこいつの趣味だ。

 部屋はいつも薄暗い方がかっこいいと思っているらしい。


「よかったここにいたか……自室の場所も変えないなんて学習能力のないやつだ」

「アディ……遅かったではないか。学習能力がない……?クックック……果たして本当にそうかな?」

「どういうことだ?……そういえばリリスはどうした。俺たちはあいつを探してここまで来た。ぶっちゃけお前はどうでもいいんだ」

「クックック……リリスならそこにいるではないか……クックック……」


 味噌ラーメン醤油味が指差した先には、木の先に水晶玉をくっつけた様なオブジェクトがあり、水晶玉の中でリリスが眠っていた。


 ていうかこいつクックックって言いすぎだろ。

 しかし今はどうでもいいからスルーだ。


「この野郎……リリスに何をしやがった!」

「少し眠らせただけだ。中々に言うことを聞いてくれんものでな。お仕置き中だ」

「実の妹にお仕置きだと?この変態め!」

「何を言っているのかよくわからぬが……まあいい。どちらにしろお前にはここで消えてもらうのだから関係がないことだ」

「やけに強気だな。俺に勝てるとでも思ってるみたいだが」

「クックック……さあどうだろうな。戦えばわかることだ。行くぞ!」


 俺と魔王の、二度目の最終決戦が始まった。

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