勇者一行、魔王城を駆ける

 二階にはあまり人の気配がない。

 俺がここに来ると予想は出来ていても、魔族たちの配備までは間に合わなかったみたいだ。


 もとよりここは偉い人たちにラーメンを振る舞うだけのフロア。

 普段から人が少ないのだからこんなものだろう。


 そのままの勢いで三階へと上がる。

 三階は塩ラーメン系の研究フロアだ。


 一気に階段まで駆け抜けようとすると、複数の人影に阻まれた。


「待て。私は魔王軍の幹部が一人、ゴルザビッチ。ここから先は通さぬ」


 くそっ、仲間の安全を考えれば時間との勝負なのに厄介だな。

 相手は手下を連れていて、範囲攻撃を持っていない俺だと対処に時間がかかる。


 いや、正確に言えば持ってはいるがダサいのであまり使いたくはない。


「アディ。ここは私に任せて先に行って」

「マリア……さすがにお前一人じゃ無茶だ」

「こいつらは魔王じゃないんでしょ?だったら何とかなるわ」


 魔王には、最強の魔王でリリスの兄である味噌ラーメン醤油味の他に契約で誕生した雇われ魔王とがいる。

 雇われ魔王は魔王の必殺スキル『かなりすごい封印』が使えるため、俺以外の人間では倒すことが出来ないのだ。


「お願い。早く行って……そしてリリスを連れ戻して来て」

「マリア……すまねえ!」

「絶対に死んではならんぞ!!!!」


 そう言い残したエリーの声は震えている。


 時間が惜しいから仲間を置いていくというのは本末転倒というやつなんだけど……まあいいか。

 どちらにしろリリスは「捕まっている」らしいし、安全とは限らない。

 一刻も早く行ってやった方がいいのは事実だろう。


 しかし仮にも妹を捕まえるというのはどういう事なんだろうな。

 味噌ラーメン醤油味の考えることは未だに理解出来ない。


「おっとお!行かせねえぜイッヒッヒィ」

「『すごい通常攻撃』!!!!」

「しゅごいいいい!!!!」


 自分たちの行く手を阻む敵だけを倒して、最短距離で階段に向かった。


 四階は醤油ラーメン系のフロアだ。

 階段が終わった頃には既に醤油の風味が鼻を刺して来ている。

 

 腹が減っていたら思わずラーメンを探して食べてしまいそうになるが、さっき肉料理屋で腹を満たして来た俺たちにその心配はない。


 このフロアにはどうやら幹部はいないようだ。

 あまり強くない敵ばかりだったので、すんなりと進む。

 以後そんな調子で順調に進んでいたのだが。


 七階の味噌ラーメン系の研究フロアも、同じように最短距離で階段までの道を走り抜けていた時だった。


「待てい!俺は新しい魔王が一人、塩ラーメントマトソース風味だ!」


 恐れていた事態が起きる。

 雇われ魔王が部下たちを引き連れて現れたのだ。


「俺が魔王をやる!お前らは他の敵を頼んだぞ!」

「わかったのじゃ!」

「わかりました~」

「ワオ~ン」


 俺は前に出て雇われ魔王と対峙する。

 塩ラーメントマトソース風味は格闘家なのか、武器を持たないままで戦闘態勢に移った。


 右半身を前にずらした状態で構えて、拳は握られた状態だ。


「またしても味噌ラーメン醤油味様に仇なす宿敵アディよ。悪いが今度は味噌ラーメン醤油味様と会う事すらなく消えてもらう!!」


 塩ラーメントマトソース風味は地面を蹴って前に出ると、一瞬で俺との距離を詰めて来た。


「必殺!!『ラーメン冷麺Hey yo メ~ン』!!!!」


 雇われ魔王がその身一つで繰り出す華麗なる三連撃。

 しかし俺は防御をすることもせず、敢えてそれを全て避けてみせた。


「なっ……私の攻撃が当たらないだと!?」

「遅いんだよバカヤロウ!」


 逆袈裟斬りの軌道で剣を振り上げる。


「『すごい通常攻撃』!!!!」

「しゅごいいいい!!!!」


 こうして雇われ魔王は簡単に倒れた。

 しかしそうこうしている内にやつの手下だった魔族の数がどんどん増えている。


 全部倒せなくもないのだが、かなり時間がかかりそうだ。

 どうするかを考えながら敵と戦っていると。


「ゴーレムちゃん!!!!」


 それまで俺とエリーの支援に回っていたサラがそう叫んだ。

 するといつか見たサラの巨大ゴーレムではなく、俺たちより少し大きいくらいのゴーレムがたくさん地面から現れた。


「みなさん、先に行ってください!ここは私が!」


 初めて聞くサラの緊迫した声。

 その声は覚悟を決めたようにも思えて、俺は黙って頷く事しか出来なかった。


「クゥ~ン」


 元はサラの飼い犬であった暗黒邪竜はさすがに心配な様だ。


「どうする?お前はここに残るか?」

「わん!」


 どうやら「お前らについていくぜ!」と言っているらしい。


「サラ!絶対に生き残れよ!」


 サラは静かな笑顔でこちらを一瞬だけ振り返った。


 八階から上の居住区画に入ると、ますます敵の数は減って来る。

 そして遂に一番奥にある巨大な部屋……味噌ラーメン醤油味の部屋の近くまでやって来た。

 前回あいつが最後にいたのもこの部屋だったから来たのだが、もしここに居なければ面倒なことになる。


 俺は半ば祈るような気持ちで走っていた。


「もう少しであいつがいる部屋に辿り着くぞ!」

「ワオ~ン!」


 そして部屋の前まで辿り着いたのだが、そこでは大量の魔族たちが部屋に入る扉を塞いでいる。


「くそっ……ここまで来てこれかよ!」

「わんわん!」


 もう部屋は目の前だってのに……!

 歯噛みをしていると、エリーが武器を構えて叫んだ。


「アディ!ここはわらわと暗黒邪竜に任せて先に行くのじゃ!」

「ワオ~ン!!」

「エリー……」


 一瞬迷ったが、もう部屋は目の前だ。

 それに大量の魔族がいたと言う事は、やはりここに味噌ラーメン醤油味がいるということでもある。


「すまねえ!」

「任せるのじゃ!」


 しかしエリーに任せるとは言っても、大量の魔族が扉を塞いでいるのでそう簡単には部屋に入れない。

 かと言っていちいち倒すには時間がかかりすぎる。


「……なあお前ら。悪いんだが、そこを通してくれないか?」

「いいよ」

「よっしゃあ!!!!」


 俺は、勢いよく魔王の部屋の扉を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る