勇者一行、地獄の料理を堪能する

 魔族の若者が教えてくれた通りに街道を歩いていると、少しずつ魔王城のある街が見えて来た。

 マリアが街並みを眺めながら言う。


「ここが……リリスの生まれ育った街なのね……」


 地獄の中心にして魔王の本拠地、クイダオレタウン。


 ラーメンの総本山「魔王堂」だけでなく、地獄のありとあらゆる食文化の発信源となっている街だ。

 この世界で、クイダオレタウンに訪れたこともなしに食を語ることは出来ない。


 それほど食にとっては重要な拠点なのだ。


「よし、まずは肉料理屋からだ」

「そうね」

「わん!」


 肉と聞いて反応する暗黒邪竜。


「ふっ……しょうがないやつだ」


 肉好き犬の頭を撫でながらその辺りの肉料理屋に入った。


 老舗の肉料理屋『ここで突然のステーキ』。

 シモフリバッファローの肉をふんだんに使った香草焼きが看板メニューの店だ。

 スタッフの接客もサービスも万全。


 値段は他の肉料理屋に比べて全体的に少し高めだが、それを補って余りある程の素晴らしさで、むしろ安く感じてしまう。

 この店を知らないやつは人生の半分を損していると言っても過言ではない。


「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「犬を入れて5名だ」

「かしこまりました。それでは席にご案内いたします」


 さすがは老舗。

 犬がいることに対して動揺する素振りを見せず、ツッコミすらも入らない。


 案内された店内は白を基調とし、床や調度品を素材そのままの木目調で統一した小洒落た内装をしていた。

 肉料理屋には似つかわしくないその内装が、むしろ食欲を増幅させる魔法の様に訪れた客の胃に襲い掛かって来ることだろう。


 奥のテーブルに案内され、座って羊皮紙に書かれたメニューを眺める。


「中々素敵な店じゃの」

「アディ様程じゃないけどね」

「ふっ……よせよ」

「アディはどちらかと言うとかっこいい系じゃな」

「いえいえアディさんの一番いいところは清い心ですよ~」

「どうしたんだ子猫ちゃんたち……褒めても何も出ないぞ?」


 あまり使ったことのない言葉を使って話していると、料理が到着。


「わあ~とってもおいしそうですね~」


 サラが感嘆の声をあげる。


「早速いただきましょ」


 マリアの言葉を皮切りに、俺たちはまるで獰猛な肉食獣の様に香草焼きにかぶりついていった。

 肉を口に含み、噛んだ瞬間に肉汁が溢れ出る。

 それはさながら、誰も知らない秘境にある大自然の中の滝を思わせた。


「すごい!何だこの肉汁は……!」


 シモフリという名の通り、シモをフリフリした様な食感が香草、塩、そして胡椒などのスパイスとのアンサンブルを奏でている。

 

 この肉を噛みしめる内に段々と見えて来てしまった……。

 そう……このシモフリバッファローが育った、どこかの高原にあるのどかな牧場の風景が……。


 気が付けば、いつの間にか暗黒邪竜が物欲しそうな目でこちらを見ている。

 自分の香草焼きを分け与えてやった。


「わん!」


 ありがとうと言っているみたいだ。

 かなり美味そうに食べている。


「ふっ……そうか、お前もこの肉の良さがわかるか……」


 俺は指をパチンと鳴らして店員を呼んだ。


「大変申し訳ございませんお客様、御用の場合はそちらのベルをご利用ください」

「そうか……すまない。ところで、このバッファローはどこの高原で育てられたんだ?」

「こちらの肉は街から少し離れたところにあるクソみたいな牧場で育てられたシモフリバッファローのものを使用しております。よければ直接牧場を見学するプランがございますが」

「いや、いい。ありがとう」


 そして丁寧な様で少し口の悪い店員は去って行った。

 その後も思う存分に肉料理を堪能して満足した俺たちは、幸せな気分のまま店を後にした。


 店を出たところで胃を落ち着けようと、その辺のベンチに座った時。


「で、今のはリリスと何の関係があったのじゃ?」


 エリーのつぶらな瞳が俺を捕らえて離さない。


「何だったんだろうな……正直この街に入った辺りから、何をしに来たのかが完全に頭から抜けてたんだよな……」

「アディ様が子猫ちゃんとか言い出すから何かと思ったわよ」

「マリアやめろ、さっきの店での出来事を蒸し返すのは禁止だ」


 というわけで、気を取り直して魔王城へ向かった。

 街中を歩くと、最初の街よりも視線が痛い。


 「どうして魔族じゃないやつらがこんなところに」と、目で訴えて来ている。


 魔王城の前まで来ると、門の前には一人の男が立っていた。

 普段は門番などいないはずだが、どういうことだろうか。

 そう考えていると目の前の男が口を開いた。


「ある幹部から聞いている。アディがこの街への行き方を聞いて来たとな」

「何?……お前は誰だ?」

「クックック……良くぞ聞いてくれた。私は『門番の中の門番』ゴルザロス!ここを通りたければ私を倒せ!」

「『食後のすごい通常攻撃』!!!!」

「しゅごいいいい!!!!」


 ゴルザロスさんはあっさりと倒れた。


「よしいくぞ」


 こうして俺たちは魔王城ことラーメンの総本山、魔王堂に足を踏み入れた。


 ラーメンの総本山「魔王堂」。

 全世界へのラーメン発信の中心点にして終点。


 日夜新ラーメンの開発が行われると共に、既存のメニューを改善していくための研究も怠らない。

 ラーメン好きならば一度は訪れるべき聖地だ。


 魔王堂は一階が一般客を相手にしたラーメン屋となっている。

 そして二階は幹部や魔王など地獄における重要人物にラーメンを振る舞うためのスペースだ。


 三階から上は一階ごとに違う味のラーメン研究フロア。

 三階が塩ラーメン系。

 四階が醤油ラーメン系。

 五階が豚骨ラーメン系。

 六階はその他のラーメン系。

 七階が味噌ラーメン系の研究フロアといった具合だ。


 そして八階から上は居住スペースとなっていて、リリスがいるのはここと見て間違いないだろう。


「よしお前ら!ここからは駆け抜けるぞ!ついて来い!」

「「「はい!」」」「ワオ~ン」


 俺だけならともかく、今は仲間がいる。

 応援を呼ばれる前にさっさとケリをつけた方がいい。


 そう思って走っていると、建物入り口の手前で何かの影が俺たちの前をよぎる。


「はーはっはっは!油断したな勇者アディよ!私は『本当の門番の中の門番で門番の中でも最強』ゴルザベートしゅごいいいい!!!!」


 今は一分一秒でも惜しいので、もはや無言で敵を切り倒していく。

 魔王堂に入ると俺たちはそのまま階段まで一気に駆け抜けて二階へと上がった。

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