伝説の勇者、スケベ犬に光明を見出す

 目が覚めてリリスがいなくなっていることに気付いた俺たちは、屋敷中を見て回った後、少しだけジミーダ村も探し歩いてみた。


 しかし、一昨日からの様子を考えれば、リリスが自分から姿を消したと考えるのが自然だろうという結論に至る。


 そして迎えた昼食時。

 朝飯を抜いてリリスを探したから腹は減っているはず。

 なのに、皆一様に食事が進まない。


 俺は、昨夜の出来事を皆に打ち明けてから言った。


「すまない……俺がもうちょっとリリスに気を配っていれば……」

「アディ様のせいじゃないわ。まさかいなくなるなんて思わないもの……」


 マリアも今回ばかりは落ち込んでいる。


「ひとまず心当たりを探してみましょうか~」

「サラ……その心当たりってのがあまりないんだ……」


 リリスを探そうにも、これ以上はどこをどう探せばいいのかわからない。

 そもそも出会った時からしてあいつは宿なしだったのだ。


「でも、そうだな……俺がリリスに知ってることと言えば……やつが魔族ってことくらいだ。だから……」

「実家……地獄に帰ったって事?」

「情報が少ないからな。思い当たるとしたらそれしかないってだけだ」


 俺と一緒にいる間、地上に知り合いがいるなんて話は出てこなかった。

 それに、知り合いがいれば宿無しにはなっていなかったはずだ。


「地獄に帰るにしても、今更っていうのがありますよね~」

「そうなんだよな……あいつ、こっちで人のためになることがしたいとかいって張り切ってたし……」

「とにかく、これ以上は探そうにも手がかりすらないのじゃ……」


 エリーの一言に対して誰も何も言えず。

 その場はひとまずお開きとなった。


 家にいてもしょうがないので、気晴らしに散歩でもしようかと外に出ると。


「クゥ~ン」


 暗黒邪竜が歩み寄って来た。

 何となく悲しそうな表情をしている……様な気がする。


「お前もリリスがいなくなって寂しいのか」

「クゥ~ン」

「一緒に散歩でもするか?」

「わん!」


 クエストに行く気分でもないので、その辺をぶらぶらしてみる。

 やがて可愛い女の子を見つけたスケベ犬が女の子に走り寄って行く。


「わんちゃんおいで~ふふ、可愛いね~」


 まんまと可愛がられてやがる。

 やがて満足すると戻って来た。


「うらやましいやつめ」

「わん!」


 更にぶらぶらしていると、今度はスケベ犬が何かを見つけて走り出した。


「わん!」

「いやわん!じゃねえよ。他人様の家の下着をどうするってんだ」

「ウゥ~……」

「怒んな。持ってったらだめだから。それにもしおばさんのとかだったらどうす」

「きゃっ!びっくりした~何この犬~」


 家から出て来て干してあったものを取り込もうとしたのは美少女だった。

 まだこの村にこんな可愛い子がいたのか……。


「ああ、悪いねうちの犬なんだ。可愛い女の子が大好きなやつでさ」

「えっ、アディ様?本物?」

「おっ、何だ俺を知ってるのか」

「すごい!私ファンなんです!昔はろくでなしだったのに、今は心を入れ替えて世の為人の為に冒険者をやってらっしゃるとか!」

「ふっ……まあそれが勇者の義務ってやつだからな」

「わん!」


 何故か得意げな暗黒邪竜。

 アディはわしが育てた、とでも言いたいのだろうか。


「特に必殺の『勇者アイ』は皆の憧れの的ですよ!あれはどうやったら使えるようになるんですか!?」


 こんなとこまで広まってんのかよあれ……。


「残念だが、あれは俺にしか使えないんだ……」

「そうなんですね……本当に残念です。一人暮らしだから何かと不安な事も多くて……私も使えるようになりたいなあ」

「何かあったら俺を呼んでくれよ。あっちにある屋敷に住んでるからさ」

「本当ですか?じゃあ本当に困った時はお言葉に甘えます!」

「ああ、そうしてくれ。今度お茶しような」


 ラッキーな出会いに気分を良くしながら美少女の家を後にした。


「でかしたぞ暗黒邪竜」

「わん!」


 それからまたぶらぶらと歩いていると、やはり民家の庭に干してある下着のもとに走り寄って行く暗黒邪竜。

 そしてその庭で洗濯物を干しているのはやはり美少女……。


 ん?

 そういえばさっきの美少女は一人暮らしと言っていた……。

 つまりあれは確実にあの子の下着だったということだよな。


「おい、ちょっと待て暗黒邪竜」

「わん!」

「あら、可愛いわんちゃんですね」

「悪いね、うちの犬でさ」

「わん!」

「おいばか本人の目の前で下着を盗もうとすんな」

「ウゥ~……」

「逆ギレかよ」


 謝って民家を後にする。


「それでお前、美少女の下着をどうやって見つけてんだ?もしかして本当に匂いだけでわかるのか?」

「わん!」

「まじか……」


 だとすると……。


「おい、今すぐ屋敷に帰るぞ」

「わん!」




 屋敷に戻って来た俺は、すぐに全員を食堂に呼んだ。

 幸いにも屋敷に居てくれたらしい。


「どうしたのじゃ?アディ」


 怪訝な表情のエリー。


「リリスを探す手立てが見つかった」

「えっ!?本当に?」


 驚くマリア。


「ああ。それはな……こいつだ」


 俺は傍らで控えていた暗黒邪竜を手で示した。


「あら暗黒邪竜ちゃん~すっかりアディさんと仲良しなのね~」

「その犬でどうやって探すのよ?」


 マリアはとても不思議そうな顔をしている。


「こいつはな、美少女の下着の匂いを遠くからでも嗅ぎ分けることが出来るんだ。だからその逆……リリスの下着の匂いをたどって、リリスの痕跡を探してもらうことも出来るはず」

「なるほど……妙案ね……」

「思いもよらぬ方法じゃな……」


 色々とひどい方法ではあると思うのだが、誰からもツッコミは入らない。


「そうと決まれば早速行動じゃ!」

「待て待てエリー。とりあえず準備をしてからだ」


 そして各自旅になった場合を考えて色々と準備をしてから庭に集合。


「よし、それじゃ出発するぞ。リリスのぱんつは持ってきたか?」

「そんなもの持っておるわけがなかろう!」

「アディ様が持って来てあげた方がいいんじゃない?リリス的にも」

「何でだよ……」


 結局サラに持ってきてもらって出発。


 待ってろリリス……絶対にお前を探し出してやるぞ!

 この……お前のぱんつを使って!

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