ドワーフのお姫様、絡まれる

 リリスの捜索を開始した俺たちは、ジミーダ村を出た。

 捜索とは言っても、リリスのぱんつを持って暗黒邪竜の後を追いかけるだけという中々にひどい絵面だ。


「まあ当然と言えば当然だが、ジミーダ村は出ていたか」

「ジミーダ村はほぼ探しつくしたからね」


 早足でスケベ犬を追いかけながら、マリアが言った。


 ところどころで休みながら、やがて俺たちは王国とジミーダ村の中間くらいにある、大きくも小さくもない平和な村に着く。

 しかし、尚も暗黒邪竜は前進をやめずにぐんぐんと村の中を進む。


 村中を見回しながらエリーが言った。


「まさか、この村にリリスがおるのかの?」

「どうだろう。わざわざこの村に来るような当てがあいつにあるとも思えないけどな……」


 話ながら歩いていると、とある井戸の前に着いた。


「わん!」

「そういうことか……」

「アディさん、どういうことなのでしょうか~?」


 サラの質問に答える。


「この井戸は恐らく地獄への入り口だ。リリスはやっぱり実家に帰ってたってことだな」

「何でこんな井戸が地獄への入り口になってるのよ?」

「地獄にずっといる方の魔族はやや排他的な種族だからな。魔族以外の種族が簡単には地獄に入って来られないように、定期的に入り口を変えてるのさ。正直、前に味噌ラーメン醤油味を倒した時は地獄への入り口を探すのが一番苦労した」

「そうだったんですね~えらいわ~暗黒邪竜ちゃん」


 そう言って、サラはスケベ犬の頭を撫でてやっている。


「そんなわけでこれから地獄に入る。俺は行くが、お前らまで無理について来いとは言わねえ。屋敷に戻って待っててもいいぞ」

「ふっ……アディ様、何をそんな今更な事言ってんのよ。私はアディ様とおやつがあればどこへでも行くわ」


 サラはそう言いながらもモリモリとおやつを食べている。


「私も行きますわ~」

「リリスがいないと屋敷にいてもつまらんのじゃ!」


 サラとエリーも同意してくれた。


「よし、それじゃ行くぞ!」


 そして俺たちは、順番に井戸に飛び込んでいく。

 村の住民たちの変人を見る様な視線を受けながら。


 気が付けばもうそこは地獄だった。

 空が赤く、地面が黒い事以外は地上とほとんど変わりがない。


 俺たちのいる場所は、どこかの町の入り口のような場所だった。


「まさかまた地獄に来ることになるとはな……」

「不気味なところねえ」


 そう言いつつもマリアに怯えている様子はない。


「一つだけ注意して欲しいことがある。さっきも言ったけど、地上の魔族と違ってずっと地獄に住んでいる魔族ってのは排他的だ。俺たちは見た目からしても魔族じゃないってすぐにわかるし、話しかけたら襲ってくる可能性まであるから気をつけろよ」

「物騒な話じゃのう」

「ですね~」


 わかってるのわかってないのか、エリーとサラはのんびりと答えた。


「よし、それじゃ暗黒邪竜!頼むぞ!」

「わん!」


 サラがリリスのぱんつを近づけると、暗黒邪竜は「ついて来な」という顔をしてとことこと歩き出す。

 そして街の中心部まで来たところで立ち止まった。


「クゥ~ン」

「どうした?」


 さすがに何が言いたいのかわからない。

 困っていると暗黒邪竜はとある店に近寄り、その店の前で「わん!」と吠える。

 それからまた別の店に近寄り、その前でも「わん!」。


 暗黒邪竜が吠えたのは、どれも共通した種類の店の前だ。


「なるほどな」


 近くを見渡してみると、かなりの数のラーメン屋がある。


「ラーメン屋の匂いがきつくて、これ以上はリリスの痕跡を追えないってことか」

「わん!」

「たしかにすごい匂いよね」


 マリアの言う通り、町の中心部は目に見えそうな程のラーメン臭が漂っている。


「わらわの国のお祭りでもここまでの匂いはしないのじゃ」

「ま、ここはラーメンの本場だからな」


 ラーメンの原産は地獄。

 地上で作られているラーメンは真似て作られたものに過ぎない。

 匂いの強さやバリエーションも地獄ではけた違いだ。


 それはともかくとして、リリスの痕跡はここで途絶えてしまった。

 ここからどう探すかだが……。


「とりあえずその辺の者にでも聞いてみるのじゃ!」

「待てエリー、それはまずいってさっき……」


 しかしエリーは俺の話も聞かずにずんずん歩いて行く。

 そして、その辺を歩いている魔族に声をかけてしまう。


「そこの者よ、ちょいと聞きたいことがあるのじゃが」

「あぁ?ッダコラァ!?オイコラァ!!ホイサコラサァ!!」

「お、おう何じゃ凄まじい勢いじゃのう」

「お前の好きなラーメンの味はコラァ!?」

「魚介豚骨なのじゃ!」

「ンダコラァ!!」


 返事を聞くなり、相手の魔族はエリーに襲い掛かった。


「だから言っただろ!」


 俺はエリーの前に出て、代わりに敵の攻撃を受ける。


「すごい防御!」

「んほぉっ……しゅごコラァッ……!?」


 ガードを解き両腕を降ろすと、俺の顔を見た男は驚愕の声をあげた。


「おっ、お前はアディコラァ!?に、逃げコラァ!?」


 男は捨て台詞にすらならない言葉を残して去って行く。


「だから言ったろ、地獄に住む魔族はほとんどが敵対種族だって。好きなラーメンの味が同じでもない限りは大体攻撃してくる」

「魚介豚骨、美味しいんじゃがの……」


 俺は落ち込むエリーの頭を撫でながら言ってやった。


「悪いのは魚介豚骨じゃない……それを作って食べる、俺たち人間の方なのさ」

「アディ……」


 感動するエリー。

 自分としても何だかすごくかっこいいことを言った気分だ。


「誰にも聞き込みが出来ないんだったら、これからどうしたらいいの?」


 そう聞いて来るマリアに俺はこう答えた。


「別に聞き込みが悪いわけじゃない……かと言って、ただ闇雲にやってもだめだ。確実にリリスの事を知ってるやつを見分ける方法がある。ラーメン屋に入るぞ」

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