伝説の勇者、スケベ犬との友情を深める
翌朝の朝食時。
「金稼ぎと剣の試し切りを兼ねて討伐クエストをこなそうと思う」
「賛成なのじゃ!」
エリーはジミーダ村に来てからちゃんとしたクエストを受けていない。
そのせいもあってか、かなりノリ気だ。
「暗黒邪竜ちゃんも連れて行ってよろしいでしょうか~?」
「いいけど……サラ、あいつが暴走しないようにちゃんと見張っててやるんだぞ」
「…………」
リリスは起きて来てから一言も喋っていない。
「おいリリス。大丈夫か?まだ体調が良くないなら休んでていいぞ」
「あっ……い、いえ、そんなことは……」
「あんた昨日からずっとそんな調子じゃないの。ご飯もあんまり食べてないし……私がもらっちゃうわよ」
言い終わる前からマリアは飯を横取りし始めている。
「うん……」
しかしそれを気にする様子もなく、俯きがちなリリス。
「……あんた本当にどうしたのよ」
「リリス、無理はするな。今日のクエストは俺一人で行ってくるから、皆もリリスを見てやってくれ」
「そんな……!」
何かを訴えようと、リリスは瞳を俺に向けてくる。
しかし退くわけにはいかない。
こんなに元気のないリリスは見たことがないから。
早くまたあの無邪気な笑顔を見せて欲しいから。
だから無理をせず、休んでもらいたいんだ。
「そんな顔をしたってだめだ。元気にならないうちはお前と一緒には行けない。わかったな?」
「……っ……はい……」
リリスは何かを言いかけてまた俯く。
一応返事はしたものの、もどかしい気持ちを抑えきれずにいる様だ。
もう全員、何となくだがわかってはいる。
リリスには何か話したくても話せない事情があって、その関係で元気をなくしているんだろう。
でもこればかりはリリスが話してくれないとどうしようもない。
その辺りは、俺が留守にしている間に女性陣が何とかしてくれるかも、と他人任せではあるが思っている。
女同士じゃないと話せないことだってあるだろうしな。
「じゃあそういうわけだから。皆、リリスを頼んだぞ」
俺はリリスの顔を観ずに立ち上がり、食堂を後にした。
屋敷を出て冒険者組合に向かおうとすると、庭で「わん!」と元気よく声をかけられる。
もちろん暗黒邪竜だ。
「えっ、お前も行きたいのか?」
「わん!」
「俺と二人っきりだぞ?女の子なんていないぞ」
暗黒邪竜はじっとこちらを見つめたまま尻尾を振っている。
「珍しいな……まあいいや、それじゃついて来いよ」
スケベ犬を連れて冒険者組合へ。
「よう、エルザ」
「はい、アディ。今日は可愛いわんちゃんを連れてるのね」
「仲間が飼ってる犬でな。今日は俺について来るってきかないんだ」
「とっても仲良しなのね。じゃあ今夜辺り、私も仲良くしてもらおうかしら」
「おっ、いいね。クエストが終わった後にでも例の店で一杯いくか」
「ウ~……わんわん!」
「な、何だよ暗黒邪竜。怒ってんのか?」
「ふふ、じゃあ待ってるわ。それで今日はどんなクエストをお探し?」
「どんなのでもいいけど……剣の試し切りと金稼ぎを兼ねてるから、難易度は少しくらい高い方がいいかもな」
「それならおすすめは、隣の村に大量発生したジャイアントオーガの討伐ね。ちょっと数は多いし強いけど、アディなら楽勝よ。報酬もいいわ」
「じゃあそれで」
依頼受諾の手続きをしてから冒険者組合を後にした。
そしてその足で今回の目的地である隣の村へと向かう。
ジミーダ村の外に出ると、暗黒邪竜は元気にあちこちへと走り回っている。
「本当にお前はいつでも元気だな」
「わん!」
リリスの事が少し気掛かりで気分がのらなかったから、こいつの無駄な元気さは今は有難い。
「あまり俺から離れるなよ」
「わん!」
隣の村が近づいて来ると、同時に村を囲む様に立っているジャイアントオーガも視界に入った。
なるほど、これじゃ村から出ることが出来ない……村民が困るわけだ。
しかもジャイアントオーガというのはかなり強い。
それがあれだけ数がいるとなれば、その辺の冒険者じゃ駆除するのは無理だ。
今更だが、ジャイアントオーガというのはかなりジャイアントなオーガの事。
銅貨なら指で折り曲げてしまうぐらいの力を持っている。
股間にまともな一撃をもらったらひとたまりもないだろう。
とにかく、事態は思ったよりも深刻な様なのでさっさと片付けてやるとするか。
俺は腰にオイッスカリバーとチョリッスカリバーを下げている。
この内、オイッスカリバーを鞘から引き抜いた。
「暗黒邪竜、お前は自分が怪我しないことだけを考えろよ。多分ないと思うが、いざとなれば俺を置いてでも逃げろ」
「くぅ~ん」
「何だよ心配してくれるのか……大丈夫、そんな事にはならねえから」
「わん!」
「よし、行くぞ」
地を蹴って走り、堂々とジャイアントオーガたちの前に躍り出る。
こちらに気付き、振り向く怪物。
咆哮を上げながらこちらに向かって走り出した。
こちらからもオーガたちに寄って行く。
敵の先頭を次々に一撃で切り倒して行き、囲まれないようにする。
幸いにもこいつらは知能が低く統率がとれていないので、全方位から襲い掛かってくるという様なこともない。
しかし数が多いな……どれだけいるんだこいつら。
暗黒邪竜もターゲットにされているが、敵は足が遅いので全力で逃げ回れば捕まることもない。
むしろ敵を分断してくれて助かっているくらいだ。
さすがに数が増えて、一体を倒しながら別の一体の攻撃をガードした時だった。
「わん!わんわん!」
暗黒邪竜が吠える。
この戦闘に入ってから初めての事だった。
あらかじめ仲良くなっていた事が幸いしたのか、俺はこれを「助けて!」ではなく「危ない!」だと直感で理解することが出来た。
後ろを振り向くと、オーガが手に持ったこん棒を振り上げているところだ。
「『すごい防御』!!!!」
「ンホォッ……!?シュゴイ……」
しかし前からも敵が来ているこの状況で、こいつを通常攻撃で倒していたのでは次の攻撃や防御が間に合わない。
「ちっ……久々だが仕方ねえな!!」
俺は左腕で、チョリッスカリバーを鞘から引き抜いた。
「『すごい回転切り』!!!!」
「「シュゴイイイイイイイ!!!!」」
両手に剣を持ったまま竜巻の様に回転して複数の敵を切り倒す。
普段は使わない、緊急用の技。
何故普段は使わないのか?
答えは簡単、ださいからだ。
いい大人が両手に剣を持って回転してる様というのは思いの外見苦しい。
昔小さい頃に「回転切りってかっこよくね?」と思い練習して身に付けたのだが大きくなってからはほとんど使うことはなくなった。
それはともかく、気付けば敵はほとんどいなくなっている。
残るのは暗黒邪竜を追いかけているやつらだけなので、すぐに倒してやった。
「今回はお前に助けられたな」
「わん!」
無駄にスケベ犬との友情を築き上げた事を確信し、村に帰った。
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