美少女暗黒騎士、落ち込む

 翌日、俺たちは再び情報収集を行った。

 そして夕食ついでの報告会にて。


「チョリッスチョリッス大迷宮というところに聖剣が」

「ちょっと待て」


 俺は思わずエリーの言葉を遮った。


「何じゃ!」

「もうそういうのはいい。せめて探索するなら名前がまともなところにしよう」

「しかし選ぶほどに聖剣の情報なんてあるのかの?」

「他の皆は何か情報は掴めなかったのか?」


 静まり返る一同。


「まじか……」

「なら決まりじゃの!チョリッスチョリッス大迷宮に行ってみるのじゃ!」

「嫌な予感しかしねえ……」


 どうやら観念して行くしかない様だ。

 ギルドに行ってエルザから地図を貰って来た。


 そしてチョリッスチョリッス大迷宮へと出発。

 何事もなくダンジョン最奥へとたどり着いた。


 部屋にはやっぱりゴーレムな守護者のお方がいらっしゃる。


「くっくっく……よく来たな人間たちよ。まずはおにごっこでもして」

「『すごい通常攻撃』!!!!」

「しゅごピャー!!!!しゅごしゃだけに」


 大迷宮の守護者は一瞬にして消え去った。


「アディ!何をしておるのじゃ!話ぐらいは聞かんと聖剣があるかどうかもわからんではないか!」

「だめよエリーちゃん、勇者様には何かお考えがあるんだから」

「そうよ、アディ様にはあの『勇者アイ』があるんだし」

「マリア……『勇者アイ』の名前はあまり出すな。闇に引きずり込まれるぞ」


 そろそろその名前が広まるのを食い止めておきたい。


「ふふ、でもオイッスオイッス大迷宮と構造は似てますから、聖剣は奥の部屋にあるんじゃないでしょうか~」

「どうせ奥にあるのはチョリッスカリバーだろ」

「勇者様……すごいです!どうしてわかるんですか!?あ、勇者……ですか!?」

「リリス……お前まじか……」


 しかも俺がマリアに出した「『勇者アイ』の名前をあまり出すな」という指示を律儀に守ってやがる。


 奥の部屋に行くと、案の定台座に刺さった一本の剣があった。


 ススッ……。

 俺は誰にも何も言わず、無言で剣を抜く。


 台座にはこの剣の名前が彫られている。

 そして部屋の片隅には、これもオイッスオイッス大迷宮と同じく鞘が置いてある台座があった。


 そこには特集効果の説明書きが彫られていたので読み上げる。


「聖剣チョリッスカリバー……自分が食べているものの味を……より美味しく標的に伝える……?何じゃこりゃ」

「勇者様、これ……すごく便利な特殊効果なんじゃ……?」


 リリスはどうやら本気で言っているようだ。


「いや……これどんな時に使えばいいんだよ」

「残りのおやつが一つしかない時などではないでしょうか~」


 たしかにサラの言う通りの状況なら便利だが、なぜそんな特殊効果を聖剣に宿らせたかがそもそもの疑問だ。


 捨てるのも何なので、とりあえずチョリッスカリバーを持って帰宅。


 その後も誰かが怪しい情報を拾って来ては探索に向かうことの繰り返し。

 そして、とある日の夕食時のこと。


「聖剣エクスカリバーなんて本当にあんのか……?」


 俺は疲れ切っていた。

 あれから幾度となくダンジョン探索に行ったものの、エクスカリバーが見付かることはなく。


 むしろ、ダンジョンで発見したものが剣ならまだいい方だった。

 マリアが探索を振り返りながら言う。

 

「でも一番奥にある宝が『美味な棒』の非売品味だった時は最高だったわね」

「あれおいしかったよね~」

「リリスがあれをむさぼり食うなんて珍しいもんな」

「むっ、むさぼり食ってなんて……」


 他にもただの物干しざおだったり、趣味の悪い服だったりした時もあった。


「収穫はあまりよくなかったですけど……でもでも、皆でダンジョン探索をするのって、すごく楽しいです!」

「そうね」

「そうですね~」

「そうじゃな!また行きたいのじゃ!次はどこじゃ!?」


 リリスが無邪気な笑顔を振りまき、皆がそれに同意する。


「おいおい、疲れたからちょっと休もうぜ。それにそろそろクエストに行って金も稼いでおいた方がいいだろ」

「何じゃつまらんのう」

「でも皆で行けばどんなクエストでもきっと楽しいよ、エリーちゃん」

「リリス、あんた今日はやけにご機嫌じゃない。何か良い事でもあったの?」


 マリアの言う通り、何だか今日のリリスはやけに楽しそうだ。


「そ、そうかな……別に何かあったわけじゃないけど……でも、こう皆でわいわいやるのが最近楽しいなって」

「わかりますよ~リリスちゃん、私も皆さんとの生活は気に入ってます」


 サラが同意する。

 

 その後も歓談しながら食事を続けていると、食堂の扉がノックされる。

 返事をすると、入って来たのはエリー付きの執事だった。


「お食事中に申し訳ございません。何やら見慣れない犬がやって来てこの屋敷に入ろうとしているのですが……どなたかお心当たりはございますか?」


 思わず、エリー以外の全員が顔を見合わせる。

 エリーが少し怒り気味に言った。


「何じゃそんなもの。さっさと追い返してしまえ」

「いやちょっと待ってくれ……今その犬はどこにいるんだ?」

「はっ、現在は使用人が捕まえようとしておりますが……」

「アディ、お主はその犬を知っておるのか?」

「ああ、ちょっとな」


 食事を中断して全員で庭に出ると、犬が使用人たちの隙間をかいくぐってするすると逃げ回っているところだった。


「おい、暗黒邪竜!やっぱりお前か!相変わらず元気だな」


 するとその犬……暗黒邪竜は尻尾を振りながらこちらに寄って来る。

 そう、エルフの里でサラが飼っていた犬だ。


 美人にしか懐かないというスケベ犬なのだが、モンスターに襲われそうだったところを助けた際に俺にも懐いてくれていた。


「ふふ、こんなところまで追いかけて来てくれたの~?暗黒邪竜ちゃん」

「何じゃ、みな知っておるのか」


 嬉しそうな顔のサラに、不思議顔のエリー。


「サラが飼ってた犬だよ。こいつは美女にしか懐かないからお前らの匂いをたどってここまで来たんだろ」

「あらアディ様ったらお上手ね」


 調子に乗るマリア。


「全然上手ではないだろ」

 

 こんな何だかんだで忙しくも楽しい日常に、すっかり慣れてしまっていた。

 だから俺は勘違いしていたんだ……。


 このままこんな日常が、ずっと続いていくんだって。


 いつもなら「クロちゃん!」とか言ってスケベ犬に飛びつきそうなリリスが黙っているのを不思議に思った俺は、ふと彼女の方を見た。


 するとリリスの顔は、今まで見たこともないくらいに青ざめている。

 それから一人でぶつぶつと、何事かを呟く。

 

「……そんな……今……?」


 俺はリリスに声をかけた。


「おい、リリス……リリス!」


 そこでようやく我に返って顔を上げるリリス。


「はいっ!どうしました?勇者様」

「どうしたって……お前、今明らかに変だったぞ。何かあったのか?」

「えっ?そうですか?別に何も……」

「体調が悪いのですか?病気は魔法でも治せませんから、今日は休んだらいいんじゃないかしら~」

「ううん、大丈夫だよ」


 サラの提案に何とかそう返事をしたものの、リリスの表情はまだ良くない。


「まあ、最近探索ばっかり行ってたからな。今日は早く休んで、明日も休養日にするかね」


 そうしてその日はすぐに寝た。

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