金髪碧眼の美女、やらかす

「でよお、要らねーとか言わずに聖剣オイッスカリバーを持ってってくれよぉ!そうすりゃ俺のこの永遠の孤独ともおさらば出来るんだよぉ!」


 ゴーレムは泣きそうな声で叫び出した。

 こいつどんだけ必死なんだ。


「勇者様……」


 リリスが懇願する様な目でこちらを見つめてくる。


「わかったわかった貰っていってやるよ。持ってるだけなら損はしないしな」

「ありがとうぅぅぅぅ!!!!うおおおぉぉぉぉ!!!!」

「うおっ!!」

「きゃっ!!」


 ゴーレムが感動の咆哮をあげたのでダンジョンが揺れた。


「いきなり叫ぶんじゃねえよ!」

「すまんすまん、つい嬉しくてな……」

「それで?もぐもぐ……聖剣オイッスカリバーってのはどこにあんのよ?……ムシャムシャッ」

「おいマリア、お前は喋らなくていいからお菓子を食うのに集中しろ」

「ふふふアディ様、優しいのね……」

「どんだけプラス思考なんだよ」


 ていうかマリアのお菓子の量が明らかに500銅を越えているんだが。

 マリアの言葉を聞いたゴーレムが語り出した。


「おお。忘れてた……オイッスカリバーを手に入れるには俺を倒せばいいよ。ほら豪快にドカンとやっちゃってくれ」

「え、何だよそれ。つまりお前を消さなきゃなんないってことか?」

「聖剣がある部屋への扉を開くには、俺を倒すか俺が扉を開くかすればいいんだが……どうせならあんたらの手で俺を倒して欲しいんだ……どちらにしろ扉が開けば俺は消えちまうから……」

「そんなの嫌じゃ!せっかく友達になれたのに、なぜ我々の手で消さねばならぬのじゃ!」

「ドワーフのお嬢ちゃん……ありがとう。あんたと会えて本当に良かった……」

「ううっ……ゴーレムさん……」


 泣き出すリリス。


 ……いや、正直かなりやりづらいんだが……。

 いつもなら「俺は消えちまうから……」の辺りで既に切り倒してるんだけど、余りに女性陣が悲しそうな顔してるからよ……マリア以外。


 ていうかマリアは何してんだ?

 辺りを見渡してみると、マリアはいつの間にか奥へと続く扉の前にいた。


 一方俺の目の前では、ゴーレムと女性陣の感動シーンが最高潮を迎えている。


「さあ!頼む!早く俺を!俺を倒してくれえええええっ!!」

「嫌じゃ!わらわには出来ぬのじゃ!」

「ゴーレムさん……うう……」

「ちょっと寂しいお別れの仕方ですね~」


 その時、扉の前にいたマリアが何かを発見したようだ。


「ねえこれ何かしら?」


 するとガコン、という音と共にその扉が開いてしまう。


「あっ……それ非常用のボタン……」


 そんな遺言を残して、ゴーレムは消えてしまった。


「…………」

「…………」

「…………」


 全員固まってしまい、場には沈黙が流れている。

 いや、非常用ボタンって何だよ……。


「何をやっておるのじゃ!マリア!」

「ちょ、ちょっと私のせいじゃないわよ!まさか開くと思わなかったから」

「マリアちゃんひどい!すごくいいゴーレムさんだったのに!」


 うろたえるマリアってのも珍しいな。

 多分本当に悪気はなかったんだろう……。


 女性陣の言い合いが終わるのを待ってから、奥の部屋に入った。

 部屋の中には台座の様なものがあり、そこに一本の剣が刺さっている。


 俺は剣を見つめながら呟いた。


「これが聖剣オイッスカリバー……」

「勇者様!早く抜いてみてください!」

「よし、いくぞ……」


 ススッ……。


 まあ、普通に抜けるよな。

 特に感動とかそう言ったものは一切ない。


「…………」

「…………」

「それで、これからどうしましょう~?」


 サラののんびりとした声。


「とりあえず帰るか……」





 ジミーダ村までの帰り道では剣の性能に関する話で盛り上がった。


「ゴーレムは消臭機能があるとか言ってたな……まさか暗号とかじゃなくて、本当に臭いを消すって意味なのか?」

「それに、一家に一本とも言ってましたね」

「リリス……そこには触れなくてもいいと思うぞ」

「とりあえず何か臭いものを持ってきて、臭いが消えるか確かめればいいんじゃない?消えなかったらあれは暗号で、何か別の機能があるってことでしょ」

「まあ、それもそうだな」


 何だか最近急にマリアがまともな事を言うようになったのも気にはなるが。


「しかし道端にはそんな強烈な臭いのするものは落ちておらぬのう……」

「帰ってから夕飯の買い物がてら、食料品店にでも行って探しましょう~」


 そしてジミーダ村に帰って来た俺たちは食料品店である物を買って来た。

 スメルズライクアシノウラという、足の裏の臭いがする果物だ。


 しかも、臭いの強さは本物の足の裏の数段上。


「うおっ……やべえなこれ……」

「本当に足の裏の香りがするのじゃ!」

「アディさん……早めにお願いしますね~」


 いつものんびりとしているサラも、さすがに顔をしかめて鼻をつまんでいる。


「よし、それじゃやるぞ……」


 俺は鞘から聖剣オイッスカリバーを引き抜く。

 鞘は聖剣が刺さっていた部屋の隅に台座があって、そこに置かれていた。


 そしてその台座には「聖剣オイッスカリバー。自分の周囲の気になる匂いを消すことが出来る」との説明書きが。

 恐らくは魔法と同じ要領で使えるということだろう。


 俺は魔力はほとんどないが、全くないというわけじゃない。

 生活魔法コモンという、人間であれば誰でも使える様な最下級の魔法くらいなら使えるのだ。


 説明書き通りに、オイッスカリバーの刀身に魔力を込める。

 すると、部屋に充満していた臭いがたちまち消えていった。


 臭いに顔をしかめていたエリーの表情がぱっと明るくなる。


「おおっ!すごい!本当に臭いが消えたのじゃ!」

「やりましたね!勇者様!」

「ああ……まあ、でも本当にそれだけだな……特別に攻撃力が高いわけでもないし……それで?感は半端ない」


 俺は鞘に剣を戻した。


「それじゃ次、行ってみようか……」

「そ、そうですね……」


 何とか返事をするリリス。

 部屋にはこれ以上ないほどの微妙な空気が流れている。


 俺たちのエクスカリバー探索はまだまだ続く。

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