ドワーフのお姫様、意気投合をする
オイッスオイッス大迷宮はそんなに遠くない場所にあった。
エルザからもらった地図を頼りに歩くと、程なくして入り口にたどり着く。
今回は女性陣のテンションが無駄に高い。
「初めてのダンジョン探索なのでわくわくしちゃいますね!」
「リリス、今回のおやつはちゃんと500銅以内に収めて来たんでしょうね?」
「だ、大丈夫だよマリアちゃん」
「本当かしら、ちょっと見せてみなさいよ」
「見なくても大丈夫だから!」
「その反応、怪しいわね~ほら、あんたムッツリスケベだし」
「それは関係ないでしょ!大体ムッツリスケベじゃないし」
リリスとマリアのくだらないやり取りにエリーが参戦した。
「何やら楽しそうじゃな!わらわも混ぜるのじゃ!」
「お前ら、遊び来てるわけじゃないんだぞ」
「ふふ、でも賑やかなのはいいことですよね~」
このパーティーでは一番落ち着いているサラが微笑む。
まあ、見た目ほど頭の中は落ち着いていないが。
「よし、それじゃ中に入るぞ!気を引き締めていけよ!」
「「「「は~い」」」」
全然引き締まってねえ……大丈夫かこいつら……。
大迷宮の中は薄暗いものの、周りが見えないという程じゃない。
誰の手によるものかはわからないが、松明が壁にかけてあるからだ。
「いつも思うけど、この壁の松明っていつも誰がかけてくれてるんだろうな」
「それについてはですね、何とダンジョンに明かりを置いてくれる精霊さんがいるそうですよ~」
「えっ……そうなのか?」
「ええ、私たちエルフはその昔は妖精さんととても仲良しだったと言われているんです。今ではもうお会いすることすらありませんが~。それで昔は、ダンジョンに明かりを置く精霊さんともよくお話をしていたそうですよ~」
「なるほどな」
本当だとすれば大変に有難い話だ。
その妖精たちがいなかったら、俺たちはダンジョンを明かりもないままに歩かなければいけない。
見たこともない妖精に心の中で感謝していると、目の前を中のシルエットが遮った。
「ヌオー!」
どうやらモンスターが出た様だ。
なぜいつもダンジョンには都合よくモンスターがうろついているのだろうか。
「よし、お前ら。俺がやるからどいて……」
そう先頭にいたリリスとマリアに声をかけようとすると。
「いつもいつも勇者様のお手を煩わせるわけにはいきません!」
「そうよ!ここは私たちが!」
「アディにばかりいい格好はさせぬぞ!」
妙に張り切るリリスとマリア。
それにエリーが続いた。
「いやちょっと待てお前ら。そんなのはいいから俺が」
「アディ様……可愛い私たちを危険な目に遭わせたくないのはわかるわ。でもね、私たちだってやる時はやるんだから!」
「マリア……俺の指示に従ってくれればもっと可愛いんだけど」
「か、かわっ……じゃあ私は勇者様の指示に従います!」
そう言って敵からさっと離れるリリス。
敵とマリアが一対一で対峙する形になる。
マリアが吹き飛ばされた。
「マリアアアアァァァァッ!!!!」
「ぐうっ……でも、これはこれで中々……」
新しい性癖に目覚めつつあるマリアを無視して、俺はリリスの方を見た。
「リリス!あのタイミングで離れたらだめだろ!戦うなら最後まで戦え!」
「だって、勇者様が言うことを聞いたら可愛いって……」
言ってる間にもマリアはボコボコにされている。
「このままではマリアが死んでしまうのじゃ!」
「あまり気にしてませんでしたけど、ここの敵ってものすごく強いんですよね~」
「そこは気にしろよ……ったく、しょうがねえな……」
結局、モンスターはほぼ俺一人で倒した。
数分後。
「…………」
とぼとぼと肩を落として歩くリリス。
戦闘で出番がなく、自分が役に立てなかったことが悲しいようだ。
正直な話、こういったダンジョン探索だと俺一人でやった方が何かと早い。
こいつらは止めても無駄だし後々面倒くさいことになりそうだからついて来てもらっているだけだ。
だから、こうなってしまうのはしょうがない。
リリスと二人とかだったらあえて手を貸してもらうなり、対策は出来た。
でもさっきのマリアみたいに、パーティーメンバーに命の危険が及ぶ事態になるとさすがにそんな余裕はない。
う~ん、何か一声かけてやるか。
「リリス、そんな顔すんなよ。もしかしたらこの前みたいに物理防御力が異常に高い敵とかが出てくるかもしれないだろ。そういう時は頼りにしてるから」
するとリリスはハッとなって顔を上げた。
「そっ、そうですよね!頑張りますっ」
リリスは少しだけ元気になってくれたみたいだ。
やがてダンジョンの最奥にたどり着いた。
俺たちは今、最後らしき部屋の扉の前に立っている。
ここに来るまでに宝なんかは隠されていなかった。
だから聖剣があるとすればこの部屋の中ということになるが……。
「まあ、守護者の親分的なのが出てくるんだろうな」
「でしょうね~」
マリアののんびりとした声が壁に反響して返って来る。
「よし、ボスが出た時の作戦はこうだ。俺が最初に攻撃するから、次にお前らが攻撃してくれ」
「「「「はい!!」」」」
「それは作戦なのか」というツッコミが一切来ないことに戸惑いを覚えながら、最後の部屋へ入るための扉を開いた。
中に入ると、部屋の中央には岩で出来た生物であるゴーレムが立っている。
部屋の主は、俺たちを待ち受けていたかのように語り始めた。
「よくぞここまで来たな人間たちよ。まずはかくれんぼでもして遊ぼうではないか……クックック………」
「悪いけどそんな暇はないんだ。聖剣はここにあるのか?」
「ふっ……貴様も聖剣オイッスカリバーを求めて来たのか……」
「いや、そんな名前の剣は別に求めてないけど……他の剣はないのか?」
「ここにはオイッスカリバーしかないぞ。どんなに強烈な臭いでも消してしまう、消臭機能付きで一家に一本は欲しい代物だ……。紳士の必需品でもあるな……」
「お、おう。そうか、それじゃあ俺たちはこれで……」
全員で踵を返した瞬間、背後で強い振動と衝撃音がした。
「待て……そう簡単に帰れると思うな」
俺たちが入って来た扉が魔法のように勝手に閉じる。
ちっ、やっぱりこうなるか……。
俺たちはそれぞれの武器を手に取り、戦闘態勢に入った。
数分後。
「いやね、実際やってられないわけよ。こんなとこいてもほとんど誰も来ないし、することもないし」
「かわいそうじゃのう」
「わかってくれるかいドワーフのお嬢ちゃん。俺はな、生まれてこの方友達だって出来たことがないんだ……」
「わらわもこのパーティーにしか友達はおらぬぞ!」
「意気投合すんな」
何故かゴーレムの愚痴を聞かされていた。
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