ろくでなし勇者、いい思いをする

「中々に良い感じの屋敷じゃな!気に入ったぞ!」


 屋敷を眺めながら腕を組んで叫ぶエリー。

 屋敷、とはドワーフ共和国国王から依頼達成の報酬としてもらった家の事。


 ドワーフたち直々に建設してくれた上に、土地も国王が買ってくれた。

 ジミーダ村郊外の、閑静な住宅地だ。


 何の変哲もない、その閑静な住宅地に突如として立派な屋敷が出現したため、道行くご近所さん方は、何事かと立ち止まって屋敷を眺めて行く。


 さすがドワーフな技術力に加え人員も豊富に注ぎ込まれたため、ものの数週間でこれが完成してしまった。

 この異常な速さには物理的なものだけでなく、地属性魔法の技術なども関係しているらしい。


 かなり広いので、リリスやエリーはもちろんサラやマリアもここに住むことになった。


 部屋割りに関しては、俺は夜外出しやすいように出口に近い部屋をゲット。

 女性陣には適当に話し合いで決めてもらった。

 リリスを中心に何か揉めていたようだけど、俺の知った事じゃない。


 それと、エリーの世話役的な執事と家事をするメイドさんがついた。


 以前に住んでいた家は貸し出そうかとも思ったが、俺の部屋が半分崩壊しているので借りるやつはいないだろう。

 リリスの希望もあって、そのままにしておくことにした。


 そんな感じで、俺たちの新しい冒険者生活がスタートしたのである。




 新生活も落ち着き、食堂で夕飯を食っていたある日の事。

 話を切り出したのはエリーだった。


「そろそろ冒険に行ってもよいのではないか?」


 俺はすぐに自分の考えを述べる。


「それなんだけど、聖剣エクスカリバーを探しに行こうと思ってるんだ」


 先日、魔王になって帰って来た元国王との戦いで、俺は苦戦を強いられた。

 相手が召喚した異世界の生物を相手に、通常攻撃が通じなかったからだ。


 今俺が使っているのはその辺に売ってる安物の剣。

 攻撃力の高い武器さえあれば……そう思ってからでは遅い。


 それを痛感した俺は、とにかく強い剣を探すことにしたというわけだ。


 そこで仲間になる前から俺を知っているリリスが疑問を口にする。


「あれ?でも、勇者様には以前愛用なされていた剣がありましたよね?」

「聖剣エクスカリ『ン』バーな」

「ふふ、リリス。あれはね、王様が怪しい露店から買い付けた偽物よ」

「あれも気に入ってたんだが、既に廃棄処分になったらしい」


 元王国の神官であるマリアはエクスカリ『ン』バーについて知っている。

 確かに偽物だが、実はそこまで切れ味も悪くないし、何より俺の手に馴染んでいた。


 出来るならあれを取り戻せれば良かったのだが……。

 マリアによると、俺から没収するなり元国王が捨ててしまったらしい。


「だから強い剣を探すことにしたんだ」

「わらわの国でも良い剣はたくさん売っておるがの」


 エリーの母国、ドワーフ共和国は剣を始めとした武具の名産地だ。


「それもそうなんだけど、どうせなら聖剣並みに強い剣が欲しいからな」

「何だかわくわくするお話ですわね~」

「そうと決まれば、早速探しに行きましょう!」


 鼻息荒く、テーブルから身を乗り出すリリス。


「リリス落ち着けって。もう夜だし、探すのは明日からにしようぜ」

「それもそうですね!」 


 夕食後は特に何をするでもなく、皆で適当に雑談等をして過ごした。


 


 そして深夜。

 俺は全員が寝静まるのを見計らって家を出た。

 速足で夜のジミーダ村を行く。


 待ち合わせの酒場に到着して扉を押し開く。

 軽快なベルの音と、田舎の店にしては洒落た内装。


 そう、ここは以前ニューハーフの方とお会いした際に使った店だ。

 そこで今日、俺は遂に……冒険者組合の受付のお姉さんと飲む約束を取り付けることに成功した。


 ドワーフ共和国での護衛依頼を達成したら……という約束を、お姉さんはきちんと果たしてくれるというわけだ。


 ここに来るまで長かった……泣きそう。

 お姉さんは奥の席にいた。


「よっ、エルザ」

「こんばんわ、アディ」


 ついに名前を知ることも出来た。

 しかも、俺のことをアディと呼んでくれている。

 俺は感動で震えながら席に着いた。


「マスター、いつものを」


 ぶっちゃけここにはほとんど来ないが、雰囲気で察してくれるだろう。


「アディさん……あんたうちに来たの二回目じゃなかったかな」


 察してくれなかった。

 実はニューハーフの方と出会った夜以来来ていない。


「まあいいや。はい、ミルクね」

「ミルクか……ふっ……このまろやかな風味が俺とエルザの間に流れる和やかで情熱的な空気を表現しているかのようだ……」


 今日の俺は「子供か」などと安易なツッコミを入れたりはしない。

 ミルクすら描写も入れながら味わうことで、大人の余裕を見せるのだ。


「ふふっ、アディって普段からそんな感じなのね」

「どんな感じだよ」

「面白い人ってこと……アディのそういうところ、私は好きよ」


 おおっ……。

 そうだ、これなんだよ俺が求めていたのは。


 リリスの瞳に捕らえられた時の怪しいアレじゃない、本物のときめき。


「俺はエルザと出会うために生まれて来たのかもしれないな……」

「あら、お上手ね」


 正直自分でも気持ち悪いと思うようなセリフを吐いてしまった。

 しかし、それすらも笑顔で受け止めてくれるエルザ。


 エルザは最高だぜ!


 その夜は話も大いに盛り上がり……。

 良い感じの雰囲気のまま、俺たちは少しおしゃれな宿に部屋を取った。

 そして、そして遂に……!


 俺とお姉さんのカーニバルが開催されたのであった。




 それから、俺たちは明るくなる前にそれぞれの帰路に就いた。

 ホクホク顔で家に帰り、自分の部屋の扉を開ける。


 そして生活魔法で明かりを灯したその時だった。


「うおっ」


 俺は思わず間の抜けた声をあげてしまう。


 部屋には女性陣が勢ぞろいしていた。

 サラとマリアは部屋の隅で行儀よく座っているが、リリスだけがなぜか縛られていて、口元を布で覆われていた。


「ん~っ!ん~っ!」


 その中でエリーだけがベッドの上に立っているのだが……。

 なぜか今から魔王でも倒しにいくかのような完全武装をしている。


「遅い、遅いぞアディ!どれだけ待たせるのじゃ!」

「いやちょっと待ってくれ!何だこの状況!?」


 そして手に持ったハンマーを俺の方に向けながら、エリーは宣言した。


「これより、子作りファイトを行うのじゃ!」

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