ドワーフのお姫様、巣立つ

 「ドンドコラーメン早食い大食い大会」が終わった翌日。

 俺たちは現在、王城の謁見の間にて国王陛下に謁見をしている。


 何と国王陛下、つまりエリーの親父さん直々の呼び出しを受けたのだ。

 用件は恐らく、大会初日に二人も魔王を倒した事についてだろう。


 玉座に座ったまま、王様は言った。


「伝説の勇者アディよ。この度はよくぞ魔王の陰謀から国を守ってくれた」


 事実とはいえ、そんな言い方をされると何だかすごい事をした気になってくる。

 

 実際は女の子につられて呼び出され、話も聞かずに人を切り倒しただけだ。

 異世界から来たおばちゃんに押し倒されたりもしたっけか。


 俺の仲間の女性陣はうんうん、と頷いていた。

 こいつらは俺の行動について、「不審者の目撃情報があったから、誰にも危険な目には遭わせまいと一人で確かめに行った」と思っている。


「いえ、人として当然の事をしたまでです。罪もなき人々を危険に晒す魔王を見過ごすことが出来なかったものですから……」

「ふむ……戦闘力が高いだけのろくでなしと聞いておったが……素晴らしい心の持ち主ではないか。何でも『勇者アイ』という能力を使って、少女が魔王に操られていると見抜いたそうだが、それはどうやれば使える様になるのだ?」


 やっべ……『勇者アイ』広まりすぎだろ……。

 そんな能力ないから。俺の口から出まかせだから。


「残念ながら……『勇者アイ』は選ばれた者にしか使うことは出来ません。私も気が付いたら使えるになっていたもので……」

「ぬ、そうか……それは本当に残念だな……使用条件がわかれば兵士たちに使えるようにさせたかったのだが……」


 王様は本当に残念がっている。


「まあそれはいい……本題に入ろう。この度魔王の脅威から国を守ってくれた礼をしたい」

「王様、お気持ちは有難いのですが……報酬ならギルドを通じていただける手はずになっておりますので……」


 おいリリス、余計な事を言うな。

 もらえるもんはもらっとけばいいんだよ、と言いたい。


「うむ。それなのだが……お主らはどうやら金には困っておらぬようだし、ギルドに渡した報酬だけでは礼として足りぬ。それで話に聞いたのだが……何でもお主らの住居は中々に質素なものだそうではないか」


 まあ、立派ではないな。というかボロい。


「そこで建築も得意な我々ドワーフがお主らの屋敷を建てようかと思う。そしてエリーももらってもらいたい」

「ありがとうございま……何と?」

「以上だ。よろしく頼む」

「いやちょっと待ってください王様。今最後何と仰いましたか?」

「△〇※%!をもらってもらいたいと」

「いや何を仰ってるか聞き取れないのですが。ていうか強引に話を進めようとしてませんか?」


 ずっと王様の横にいた大臣らしきドワーフがずずいっと出て来た。


「話は以上です。さっさとお帰りください」

「いや、ちょっと待てお前ら何企んでんだ本当に」


 その時、バンっと勢いよく出入り口の扉が開かれた。


「話は終わったか!?行くぞアディよ!」

「エリーちゃん!?」


 エリーは外行きの、おしゃれながらも少し動きやすい服装だ。


 思わず叫んだリリスだけでなく、全員が呆気に取られている。

 もう何が何だか。


 エリーはこちらに歩いて来て事情を説明し出す。


「何でも勇者であるお主との子供を作って国を繁栄させるらしいのじゃ!わらわも婚約相手が決まっておらんかったから丁度よいと思うてな!」

「丁度いいじゃねーよ!俺の意志ってもんがあるだろうが!」

「そうよ!アディ様にはもう私たちがいるんだから、夜の相手は足りてるわ!」

「増える分には私は構いませんよ~」

「マリア、サラ、お前らは黙ってろ」

「うっ……わらわでは、嫌か……?」

「なっ……おい、それは卑怯だろ」

 

 エリーは涙ぐみ、俺を上目遣いで見上げてくる。

 それを見た大臣がからかうような口調で言う。


「あ~泣かせた~国王陛下に言いつけてやろうっと~ごにょごにょ~」

「うむ。死刑」


 何なんだこいつら……。


「ただしエリーをもらってくれるなら許す」

「くっ……ああ、わかったよ!ただしまだ結婚はしねえからな!」

「…………」


 何だかムスっとしているリリスを差し置いて、またも強引にドワーフのお姫様が仲間になった。


 とりあえず屋敷が完成するまではエリーはジミーダ村に宿を取り、そこに宿泊するらしい。

 護衛付きなのでサラやマリアの家じゃ無理なんだそうだ。

 もちろんうちも広さ的に無理。




 ジミーダ村に帰り着いたその日の夜。

 晩飯を食い終わり、疲れたのでさっさと寝ようとベッドに転がっていると、部屋の扉がノックされた。

 今は誰も遊びに来ていないので相手はリリスしかいない。


「どうした?」


 リリスは無言で入って来た。

 後ろ手で扉を閉めると、こちらに歩いて来てベッドに腰かける。


「おい、どうしたんだよ」

「…………」


 リリスは何を緊張しているのか、顔を赤らめたまま無言を貫いている。

 急かすこともなくじっと待っていると、ようやく喋り出した。


「あの、その……ご褒美が、欲しいなって……」

「は?」

「勇者様、言ってくださったじゃないですか……私のおかげで、助かったって」

「おう、確かに言ったな」

「だから……ご褒美をください」


 別にいいんだけど……何だかリリスの雰囲気がおかしいんだよな。


「……いやいいけどよ。どんなのがいいんだ?」

「わ、私と……私と……」

「私と?」


 リリスは言いよどんだが、意を決した様に叫んだ。


「私と……夜のカーニバルを開催してください!!!!」

「なっ……」

「私の事が、大切なんですよね……?だったら私、今のままじゃ嫌です……」

「ちょっと待て、いくら何でもそれはいきなりすぎるって」


 正直相手によってはいきなりでも構わないんだけど……。

 とにかく俺は断るための言い訳をするのに必死だ。


「そ、それはそうかも……だったらその……キ、キスだけでもいいので……」

「うっ……」

「お礼だと思って……それとも、やはり私ではご不満ですか……?」


 リリスは俺を上目遣いで見上げてくる。

 まずい……またこれだ。

 何故かリリスが情熱的に目を合わせてくると、ドキドキする。


 もう俺の視界にはリリスしか入らなくなり、心拍数も上がって、手には汗。


「まっ……待てリリス、お前この間からおかしくないか?何だかお前と目を合わせるとその、妙に緊張するというか……」

「えっ?……そうなんですか?……」


 リリスは最初何を言っているかわからないという表情をしていた。

 でも何か心当たりがあるのか、ハッと目を見開く。


「そっか……そういえば……でも、それなら……」


 一人で何かブツブツ言っているが、聞き取れない。


「おい、何か知ってんのか」

「ゆ、勇者様……覚悟してください!」


 どこかからやって来た刺客の様な事を言いながら、リリスは自分の意志ではっきりと目を合わせて来た。

 俺はもうリリスの事しか考えられなくなってしまう。


「リ、リリス……」

「勇者様……!」


 嬉しそうなリリスが、目を瞑って顔を近づけて来る。

 だ、だめだ……止められない……。


 その時、ばこーんとすごい勢いで部屋の扉が開いた。


「リリス!!何をしておるのじゃ!!アディはわらわのじゃぞ!!」

「いいえ私のものよ!」

「私もお忘れなく~」

「…………っ!!」


 エリー、マリア、サラだ。た、助かった……。


「ううっ……『ブラックランス』!!」

「「「!?」」」


 事もあろうにリリスは、マリアに対して攻撃魔法を放った。

 とっさにサラが何やら防御魔法で防いだ。


「ちょっと何すんのよ!」

「ううっ……せっかく、せっかくもうちょっとだったのにぃ……マリアちゃんのばか!!」

「何で私なのよ!まあ、そろそろ危ないと思って二人をここに誘ったのは私だけど……!いいわよ!!このムッツリスケベ!!やってやろうじゃないの!!」

「アディを懸けた戦いか!?わらわも混ぜるのじゃ!!」

「では私も~」


 武器を取り出すマリア。

 エリー、サラは武器を持っていないらしいが、戦闘態勢だ。


「お前ら外で……おい!!」


 その日、我が家から俺の部屋が半分消えた。

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