美少女暗黒騎士、勇者を守る
「あらやだ!」
「痛いじゃないの!」
「可愛いのにえげつないなあ」
「ええ身体しとんのになあ」
「ちょ、ちょっと……」
おばちゃんの言葉に、リリスは頬を赤らめている。
リリスの魔法は俺の通常攻撃よりかは効いているようだ。
物理防御力が異常に高いだけで、魔法は通用するのかもしれない。
しかしおばちゃんたちにはまだまだ余裕がありそうだ。
致命的なダメージには程遠いのだろう。
「あらやだ!早くバーゲンセールに行かな!」
「この際あんちゃんでもええから早く連れてってや!」
「その前にワンナイトフェスティバルや!」
「ブォフォフォ!!」
「くっ……『すごい通常攻撃』!!!!」
相変わらず俺の攻撃は効いている様子がない。
こんな時に愛剣エクスカリンバーがあれば……くそっ!
「勇者様!!……うう……」
リリスはどうすることも出来ずにだだオロオロとしている。
しかし何かを思いついた様にハッとした表情をすると、何かを詠唱し始めた。
「ハッハッハ!!アディ!!お前もこれでお終いじゃ!!」
高らかに響く、元国王の笑い声。
もうこの際、おばちゃんとのフェスティバルを受け入れるかと腹を括った、その時だった。
リリスが詠唱を完成させたようだ。
俺とおばちゃんたちのいる少し横辺りの空間に手のひらを向けて叫ぶ。
「『闇のバーゲンセール』!!!!」
リリスが手のひらを向けた辺りの空間に、大きな木箱が現れる。
その中には、木箱からはみ出るほどの食品類が詰め込まれていた。
「あらやだ!バーゲンセールやないの!」
「めっちゃお得やんこれ!」
「早よ買わな!」
「ちょっとどいてや!」
おばちゃんたちは仲間割れを始めた。
商品には、こちらの世界での文字と値札が張られているのだが、それでもお得だと感じているようだ。
文字はともかく、通貨の価値は似ているのかもしれない。
そして、おばちゃんたちがバーゲンセールに夢中な今、本体である元国王はガラ空きだ。
「勇者様!今がチャンスです!あれは幻術の一種ですから、効果が切れる前に!」
俺は元国王に向かって駆け出した。
「ひっ……ひい!お前ら!ワシの言うことを聞かんかあ!」
「あらやだ!」
「お得過ぎひん?これ!」
「レジはどこなん!?」
「早よせななくなってまうで!」
もちろん、おばちゃんたちは元国王の存在などすっかり忘れている。
「ちょっとばかし運がなかったな!おっさん!」
実際リリスが来てくれなければ、俺は大切な何かを失うところだった。
元国王は、悔しさに顔を歪ませている。
「ぐぐぐっ…………くそおおおおおおっ!!!!」
「じゃあな!『すごい通常攻撃』!!!!」
「しゅごいいいい!!!!」
元国王の身体が灰になって風に溶けていく。
同時に、異世界から呼ばれたおばちゃんたちも消えて行った。
元の世界に戻ったのだろうか。
「ふう~危なかった……」
安堵の息を吐いて座り込むと、リリスが慌てた様子で駆けよって来た。
「勇者様、ご無事ですか!?」
「ああ……リリス、今回は本当に助かった。ありがとな」
お礼を言いながらリリスの頭をなでる。
リリスは嬉しそうに、照れくさそうに顔を赤らめた。
「えへへ……」
その時、気を失って倒れていた女の子が目を覚ます。
「う……ここは……私は、どうしてこんなところに……」
状況から考えれば元国王に操られていたとかそんなところか。
何というか、前後の記憶が抜け落ちているような様子だ。
「リリス……人を操る魔法ってのはあるのか?」
「魔法ではなく、魔王にしか使えない技の系統だったと思いますが……あります。まさかあの子が?」
「多分な。とりあえず医務室に連れて行こう。リリス、あの子に肩を貸してやってくれるか?」
「はいっ」
そうして医務室まで女の子を運んだものの、命に別状はなかった。
それだけ確認すると、俺たちはエリーのところに戻る。
同じく護衛や警戒の任務にあたる兵士らと情報を共有しておくためだ。
それから俺たちは仲間内で集まり、今回の事件の疑問点について話し合った。
警戒が厳しかったにも関わらず、どうやってレオナルドが会場に侵入して兵士を操ることが出来たのか。
結論から言えば、レオナルドは転移魔法を使えたのではないかということだ。
転移魔法と言うのは、テレポートなどの一瞬で離れた空間を行き来できる魔法の一種で、召喚と同じく魔王だけが使える禁断の闇魔法とされている。
つまり、使用する際には自分の生命力を削らなければならない魔法だ。
レオナルドは美少女を餌にして、兵士を操り俺を呼び出した。
外ではなく一旦控室に呼び出したのはレオナルドが何かを画策していたからだろうけど、一瞬で俺が倒してしまったので、今となってはわからない。
そして何かをした後に女の子を外まで移動させ、ついて来た俺を倒す……という作戦だったのだろう。
しかし、レオナルドは現れた瞬間に倒されてしまった。
あの時の女の子があげた「ひいっ!」という悲鳴は女の子自身ではなく、あの子を操っていた元国王のものだったと。
想定外の事態に、元国王は慌てて女の子を外まで走らせたのだ。
後は俺が見た通りだな。
ちなみに、女の子に呼び出された部分に関しては秘密にしてある。
不審者の目撃情報を頼りに関係者出入り口方面に行ったら、『勇者アイ』によって魔王に操られている女の子を発見。
声をかけたら控室に逃げ込んだので追うと、レオナルドがいたので撃破。
そしたらあせった元国王が女の子を外まで走らせたと。
そういうことにしておいた。
俺の話を聞いた時のリリスの反応は相変わらず。
「さすが勇者様!どうやったら『勇者アイ』が使える様になるんですか!?」
「『勇者アイ』は選ばれた者にしか使えないからな……お前じゃ無理だ」
「そ、そうなんですね……残念です」
リリスは本気でしゅんとしていた。
まあ実際、そんな便利なものがあったら俺も欲しいし無理もない。
ちなみにリリスが駆けつけてくれたのは、俺が入って行った関係者口方面から闇魔法の気配を感知して様子を見に来てくれたから、らしい。
闇魔法の感知も正確な場所までわかるわけではないらしいが、あの時あの辺りに人が少ないのが幸いし、偶然にも俺を早めに見つけることが出来たのだとか。
本当に今回はリリスに助けられた……。
結局あれから大会期間中には特別な出来事は起きなかった。
全ての種目を消化して、残すプログラムは閉会式のみとなっている。
今は仲間全員でVIP席から閉会式を観ているところだ。
開会式とは違い、閉会式では名物実況のボイスマンが司会進行を担当している。
「さあ、遂にやってまいりました閉会式ぃ!有終の美を飾らせていただきますのはこの私、ボイスマンでございます!皆様準備はよろしいですか!?」
ボイスマンは耳に手を当ててじっとしている。
「おー!!」という言葉を待っているのだろうか。
もちろんそんな声は起きるわけもなく、何事もなかったかのように言葉は続く。
「それでは言ってみましょう!まず最初のプログラム!閉会式と言えばこの方!ドワーフ共和国国王だぁ!どうぞぉ!!!!」
ドワーフ共和国国王が開会式と閉会式用の特設ステージの上に現れる。
「さあ国王陛下は一体どのような挨拶を見せてくださるのでしょうか!手元の資料によりますと、一昨年去年と真面目で堅苦しい挨拶が続いており、観客の睡眠率は70%を越えて……おぉっと!ここで兵士によるカチコミだぁ!さすがの私もこれは生きて帰れるかわかりません!それでは皆さん!天国でお会いしまぶべらぁ」
王への失礼な発言に対する兵士の暴動が起きてしまった。
一方で、国王は気にせず挨拶を続けている。
この後はボイスマンがボロ雑巾の様になった事以外は特にトラブルもなく、『ドンドコラーメン早食い大食い大会』は無事に幕を閉じたのであった。
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