ろくでなし勇者、呼び出しを受ける
ようやく実況への暴動が終わると、準備時間と実況が回復する時間を取ってからまた次の競技が始まった。
競技を観戦していると、サラが何かに気付いたようだ。
「強い魔力をお持ちの方が少々多いようですね~」
魔力の強い者は、お互いにその存在を感知出来るらしい。
俺は魔力がほとんどないので全然わからないが。
サラはエルフなので生まれつき魔力が強い。
そして、現在この会場には魔力の強い者が多くいるようだ。
「まあこれだけ人がいればな」
「ええ、そうなんですけど~」
サラはどこか腑に落ちない様子で何かを思案している。
「悪いな、魔法に関しては力になれなくて」
「いえ、そんなこと~」
その時、近くを巡回しての警戒役にあたっていたリリスが俺たちのところに寄って来た。
「勇者様……何だか、闇魔法の気配がします……本格的に警戒を強めた方がいいかもしれません」
「闇魔法の気配っていうのはわかるもんなのか?」
「あ、勇者様はご存じないんですね……私たち魔族は、闇魔法が使用された痕跡を感知出来るんですよ」
人間にも様々な種族がいて、今の俺たちのパーティーだけでも純人間、魔族、ドワーフ、エルフ、と様々だ。
魔族は地獄からやってきた人間、もしくはそれらを祖先に持つ人々のこと。
彼らの中には人間界に出てこないまま地獄で暮らし続ける魔族と、こちらに出て来て子孫が生まれ、その血が薄まって来ている魔族とがいる。
だから、人間界でも割とあちこちに魔族はいるのだ。
しかも、外見上では魔族はほとんど純人間との違いがない。
闇魔法は魔族にしか使えない。
だがそういった事情もあり、魔族だけを警戒するというのもまた難しいのだ。
まあ普通に暮らしてる分には闇魔法は使わないから、気配がするとなると只事ではないのもまた事実。どうしたもんか……。
「私が感じている違和感は、もしかしたらそれかもしれませんね~」
「どういうことだ?サラ」
「普通とはまた違う種類の強さの魔力があるんですよね~」
「ふむ……とりあえず兵士たちに伝えておくか」
同じく天幕にいる兵士たちに、闇魔法の気配がする、と伝えた。
そして強い魔力を持った者がそれを使っている可能性があると。
兵士たちのところから戻ると、俺はサラに聞いた。
「ちなみに、強い魔力の持つ者がいる方角や場所ってのはわかるのか?」
「大体こちらから……という方角くらいですかね~正確な位置までは……」
「そうか、ありがとう」
その後もイベントは滞りなく進み、昼休憩に差し掛かった時だった。
競技スペースではラーメンの試食会が行われていて、エリーが食べたいと言うので付き添っていた俺に、一人の兵士が近寄って来て耳打ちをした。
「アディ様……アディ様……お話がございます……」
「どうした?」
兵士は何だか虚ろな目をしている。体調でも悪いのか?
「アディ様の……ファンだという女の子が……アディ様にお話があるから……呼び出してくれないかと……」
「なに?……その子は可愛かったか?」
「はい……それはもう……」
「ちっ……しょうがねえな」
任務中だが美少女に呼び出されたとあっちゃ断るわけにもいかない。
兵士の話によると、女の子は選手控室にいるらしい。
一般の人間だから昼休憩中に忍び込んでいるだけなので、早めに来て欲しいとのこと。
しかし、この場を離れる理由が「美少女に呼び出されたから」ってのも体裁が悪いな……。
「サラ、不審人物の目撃情報だ。ちょいと見て来てすぐ戻るから、お前はエリーについててくれ」
「わかりました~……でも、誰かと一緒に行った方がよろしいのでは?マリアさん辺りと」
「何を言ってんだ、危険な目に遭うのは俺だけでいい」
「アディさん……とても素敵ですわ~うふふ」
「それじゃ行ってくる。リリスとマリアにもそう伝えておいてくれ」
リリスとマリアは今も周囲を巡回しての警戒役についている。
特にリリスは最近妙に鋭いからな……。
何かツッコまれるとボロが出そうだし、直接話さずに伝言の方がいい。
「何じゃアディ、どこかに行くのか?」
エリーが少し拗ねた様な顔で聞いて来る。
「不審人物の目撃情報が入ったんだ。見過ごすわけにもいかないだろ」
「むう……すぐに帰ってくるんじゃぞ!」
「ああ、わかってるよ」
片手をあげて挨拶のかわりにしながら、俺は控室の方へと向かった。
控室へと向かう選手用の通路は、今はほとんど人の気配がしない。
昼休憩中だから、スタッフも選手も出払っているのだろう。
兵士から女の子が待ってくれているという控室の場所は聞いておいた。
到着して、何となく扉をノックする。
か細く儚げな声の返事を聞いてから中に入ると、そこには確かに美少女がいた。
女の子と向かい合って、まずは容姿を確認する。
かなり俺好みではあるが……中身はどうだ?
「あの……わざわざこんなところまでお呼び出しをして、申し訳ありません」
ふむ……中々礼儀正しいな。
少なくとも常識がないタイプではなさそうだ。
しかしこの子、何だか目の焦点が定まってない気がするけど大丈夫かな。
そんな風に思案していると、誰もいないはずの俺の背後から声が聞こえた。
「ハアーハッハッハァ!!ここで会ったが100年目!!この時を待ちに待ったぞアディよ!!!!この僕、レオナルドがわざわざまお」
「『振り向きざまのすごい通常攻撃』!!!!」
「しゅごいいいい!!!!」
俺の背後にいたやつは灰になり、サラサラと消えて行った。
あっ……やっべ……。
真面目に考え事してる時に出てくるから思わず倒してしまった。
うわ~しかも灰になって消えちゃったじゃん。
何だか俺の事知ってる風だったし……。
確かレオナルドとか言ってたか?
言われてみればどこかで聞いた事がある様な名前なんだよな……。
「ひっ……ひい!」
気付けば女の子は顔面を蒼白にし、扉に向かって駆け出していた。
そのままの勢いで部屋を出てどこかへ走り去って行く。
「待てっ!今のは違うんだ!」
何が違うのか自分でもわからないが、俺は女の子を追って夢中で走り出した。
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