ドワーフのお姫様、退屈を叫ぶ

 それから祭りが開催されるまでの間、俺たちは何度もエリーと遊んだ。

 リリスもそうだが、マリアやサラも随分エリーと仲良くなったらしい。


 依頼によっては護衛対象と仲良くなりすぎるのはあまり良くない。

 でも、今回はその例には当てはまらないと思って放っておいた。


 そして遂に迎えた祭りの開催初日。

 俺たちはエリーを迎えに城まで来ていた。


「いよいよ今日から祭りが始まる。新魔王誕生の噂もあることだし、何が起きてもおかしくはない。警戒は常に怠らないように」

「はいっ!!!!」


 兵士団長っぽい偉そうなおっさんに念を押され、リリスは気合十分だ。

 対して俺はどうもこういうのに気合が入らない。


 護衛するよりも、敵として襲い掛かって来たのが可愛い女の子だったらいいな、とかついそういうことを考えてしまう。


 そしてもしもそんなことがあれば、俺は周りの人々を切って捨ててでもその子を守り抜くだろう。




 祭りは街にある巨大な多目的競技場で行われるので、移動する。

 会場周辺は既に人でごった返していて、油断するとエリーを見失いそうだ。


「ほら、エリーちゃん」


 リリスが手を差し出すと、エリーがそれを取る。

 中々に微笑ましい光景だ。


「祭りが始まってもないのに何でこんなに人が多いのかね」


 俺の疑問に、マリアが周辺を警戒しながら答える。


「一般の観客は場所取りとかがあるんじゃない?確保出来なきゃ通路で立ち見とかになるから必死なんでしょ」

「お祭りは会場内だけではないぞ!競技場前の広場では毎回大道芸人が面白いものを見せてくれたり、商人が露店を開いたりしておるのじゃ!」


 エリーからそう聞いて見渡してみれば、競技場前の広場では何かを準備している人がちらほらと見受けられる。


 それはそうと。

 これだけ人がいれば、怪しいやつが紛れててもわからないな。


「エリー、実際のところこの国に住んでるお前の方が怪しいやつには気付きやすいから、何かおかしなものを見たらすぐに教えてくれよ」

「わかったのじゃ!」


 人混みをかき分けてようやく会場に入ったものの、ここも人で埋まっている。


 でも、ここからは楽だ。

 事前に受けた説明だと、エリーはVIP席で観戦することになっている。

 だから護衛の俺たちもVIP席での観戦を許されるというわけだ。


 多目的競技場は、楕円形で卵の様な形をしている。

 同じく楕円形になっている真ん中の競技スペースを囲むように観客席があり、VIP席はその中でも少し高いところにあった。


 天幕なんかも張られていて、激混みの観客席の中にあってここだけ別空間の様に快適だ。


 既に他の王族らしき人々やその護衛をする兵士たちも来ている。

 そういった人々に挨拶を済ませてから、俺たちはエリーの側で待機。


「それじゃ皆、また後でね」

「行って来ます」

「おう、よろしくな」


 事前の打ち合わせ通り、マリアとリリスは少し離れたところで巡回だ。


 まずは開会式。

 国王や王太子、そして選手代表の挨拶などが主なプログラムだ。

 出番がないせいか、エリーはとても退屈そうにしている。


「アディ、サラ、退屈なのじゃ!遊びに行きたいのじゃ!」

「もうちょっとしたら競技が始まるんじゃないのか?」

「私、ラーメン早食い競争なんかはちょっと見てみたいですね~」

「ってかエリー、体裁ってもんがあるんだから、今みたいに他の王族や兵士たちの前では俺たちを部下みたいに扱った方がいいんじゃないのか?」

「何を言うか!アディたちは友達なのじゃ!」

「はは、そうだよな」


 エリーはとても気さくでいいやつだ。

 そして何より美少女でもある。

 目潰しさえかまさなければ友達もたくさんいて、さぞモテモテだっただろう。


 開会式が終わると準備時間の後に、早速最初の競技が始まった。

 まずは味噌ラーメン大食い競争、成人男性の部。


 味噌ラーメンは最強魔王の味ながらも人気が根強く、その大食い競争ともなると盛り上がりは半端じゃない。

 トップを飾る種目としてはうってつけといったところだ。


 どこからか会場全体に届くボリュームで、男の声が響き渡る。


「さあ、遂に今年もやってまいりました!『ドンドコラーメン大食い早食い大会』!!実況は毎度お馴染みのこの私、ボイスマンだぁ!!よろしくぅ!!」


 風魔法なんかを仕込んだ、魔道具的な拡声装置でも使っているのだろう。

 ボイスマンとやらは競技スペースの傍らに設けられた、実況スペースとされる天幕の中にいるようだ。


 そして競技が始まった。


「さあ、審判の合図で試合が始まりましたっ!!全員スタートダッシュを決めたぁ!!まるで数日間餌を与えられなかった猛獣のように食らいついていく!!さあ、世界でも屈指の盛り上がりを見せるこのイベントのトップを飾るこの試合、一体どんな展開を見せていくのでしょうか!?…………おっとぉ!!いきなり脱落者だ!!脱落者が出たぞぉ~!!やっほぉ~!!お母さん、見てますかぁ~!!あ、お母さんと言えば私の実家はここから数時間程行ったところにありまして……」


 よく喋るっつーかややウザめで変なテンションの実況だな……。

 

 観衆に見守られる中、試合はどんどん進んで行く。

 やがて残り時間があと僅かになった。


「さあこの試合もいよいよ終盤!!このイベント最初の勝利という栄光は一体どの選手の手に渡るのか!?」


 その時、二番目に多い量のラーメンを食べていた選手が手から不思議な光を発すると、素早い動きであっという間に数杯のラーメンを平らげてしまった。


 今のは何だ……?


「おっとぉ!今のはぁ!?」


 今のは?会場全体が一つになって静まり、実況の解説を待った。




「何だかすごいぞやったぁ~~~!!!!」


 一斉に観客がズッコケ、観客席に波が生まれた。

 しかしそれも束の間、いい加減な解説に怒り狂った観客が暴徒と化し、競技スペースに降りて実況スペースになだれ込む。


「ああっとぉ!!ここで暴動だぁ!!さすがの私もこれはまずいぞぉ!?気づけば物もどんどん投げ込まれて来ているぅ!!実況は戦争だぁ!!さぁ、まずは最初に実況スペースへとやって来たオーディエンスの攻撃!!華麗な右ストレートがぐぼっ!!わだしの、はらにざぐれつ」


 気付けば既に競技は終了していた。

 ちなみに勝者は先ほどの手から不思議な光を発していた選手だが、もはや誰も気にしていない。


 俺たちはひたすら暴動が終わるのを待ち続けた。

 当たり前だけど、ボイスマンはもはや自分の惨状を実況する暇もないくらいにボコボコにされている。


 エリーが元気に解説をしてくれた。


「これがこの大会の名物、クソ実況への暴動なのじゃ!」

「まさか毎回やってんのか?これ……ラーメン関係ねえじゃん」


 俺はボイスマンがボコられる様子を見ながら、ため息をついた。

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