ドワーフのお姫様、友達がいないことを憂う

 数日間野を越え山を越えると、ドワーフ共和国にたどり着いた。

 王都程じゃないけど、共和国の首都も中々の規模だ。


「わ~大きいですね~」


 城門を見上げて、感嘆の声をあげるリリス。

 そのまま俺たちは入り口へと向かった。


「ギルドからの依頼を受けて来た。お姫様の護衛だ」

「これは勇者アディ様。お話は窺っておりますが、一応規則ですので身分証か滞在許可証、もしくはギルドの依頼受諾証明書をご提示願います」

「これでいいか?」


 ギルドから発行された依頼受諾証明書を取り出して見せる。


「確認致しました。城でエリー様がお待ちです、手の空いている者に案内させましょう」

「悪いな、助かる」


 受付の隅にいた暇そうなおっさんに連れられて、俺たちは城に向かう。

 道中見た、王都とはまた違う賑やかな街並みにリリスは心が躍ったようだ。


「街はすごく賑やかでしたね!また後で遊びに行きたいです!」

「お祭りのおかげでいつもより人が多いのかもしれないわね」

「まだ準備期間だけど、たしかに商人なんかが多いみたいだな」

「ふふ、賑やかなのは良い事ですよね~」


 城の中を歩きながら、俺たちはそんな話をしていた。

 通されたのは応接間らしき部屋。

 内装はシンプルで、調度品なんかも必要最低限しか置かれていない。


 ここで待つようにと言い残して、おっさんは出て行った。

 俺たちはテーブル前のソファーに腰かける。

 

 しばらくすると、さっきのおっさんよりは高そうな装備を身に付けたドワーフの青年が小さい女の子を連れて入って来た。


「エリー様、こちらが今回護衛をしてくださる冒険者、アディ様御一行です」

「お前があの勇者アディか!噂はこのドワーフ共和国にも届いておる。わらわがこの国の第三王女、エリーじゃ!よろしく頼むぞ!」


 腰まで届く艶のある黒髪が、シャンデリアの光を反射して輝く。

 意志の強そうな瞳は興味深々にこちらを見据えて放さない。

 ドワーフ特有の背の低さが、年齢を実際よりも低く見せていた。


 えっ……これが?

 口に出しては言えないけど……子供じゃん!


「アディ様。えっ……これが?口に出しては言えないけど……子供じゃん!などと考えておられるのでしょうが、エリー様は16歳ですよ」

「心の中を読むのはやめてくれ」


 門番もそうだったけど、ドワーフというのは全体的に背が低い。

 そのせいで実年齢がわかりづらいのも彼らの特徴だ。


「私たちとそんなに歳は変わらないのに、随分と背が低いのね」


 堂々とエリーと背比べをするマリア。

 元神官のくせに礼儀とかいう概念はこいつにはないらしい。


「あら~でもとっても可愛らしいじゃない~」

「お菓子食べますか?」


 リリスは、マリアに食べられて500銅以内に収まった、貴重なおやつを分け与え

ようとしている。


「冒険者様方、王女殿下に失礼です、お控えください」

「そうだぞお前ら、せめて敬語くらい使えよ」

「構わぬ。そもそも城の者らにも敬語は使うなと言うとるのに勝手に使っているだけであろうが。みなが敬語を使うおかげでわらわには中々友達が出来ぬのじゃ」

「エリー様。非常に申し上げにくいのですが、それは敬語云々は関係がございません」

「ではなぜわらわには友達が出来ぬのじゃ!」

「小さい頃から、近寄る者全てに目潰しをかましたからではないかと」

「目潰しをかましてはいかんのか?」


 エリーは、つぶらな瞳を輝かせながら首を傾げている。


「おい、このお姫様の教育係を連れて来い」

「教育係は現在目潰しの研究会に参加しております」

「そいつが原因じゃねえか、今すぐクビにしろクビに」


 というか目潰しの研究会ってのも気になるな。

 

 そんな感じで顔合わせが終わると、次に偉そうな兵士がやって来た。

 近衛兵師団長とかそんな感じだろうか。


「それでは今回の任務について詳しく説明しよう」


 これから開催される祭典の名前は「ドンドコラーメン大食い早食い大会」。

 ドンドコという言葉の意味は不明だ。


 これは、魔王の襲撃に備えてたくさんラーメンを食べて耐性をつけよう、というところから始まったものらしい。


 決められた量をどれだけ早く食べれるかを競う早食いパートと、決められた時間内にどれだけ多く食べれるかを競う大食いパートに分かれているそうだ。


 祭りの期間内は俺とサラが付きっ切りで護衛をする。

 リリスとマリアは少し離れて周囲を警戒する役目だ。


「概要はこんなものだ。何かわからないことがあればその辺の兵士に聞いてくれ。アディ殿御一行よ、よろしく頼む」


 説明が終わるとその場は解散。しようとしたのだが。


「アディたちよ、これから特に予定がないなら、わらわが街を案内してやろう!」


 お姫様がそんなことを言いだした。


「何を言ってんだ」

「いや……エリー様の提案もいいかもしれないぞ、アディ殿」

「どういうことだ」

「早い話が本番に向けて親睦を深めてもらいたいということだな」

「わあ、それいいですね!」


 それまで黙って話を聞いていたリリスが割り込んで来た。


「私もエリーちゃんと仲良くなりたいです!」

「まあ、どうせ街を回るんだからいいんじゃない?案内役がいるのは助かるわ」

「人数は多い方が楽しいですよね~ふふ」


 女性陣は賛成なようだ。


「それなら俺も構わないけど……随分と信頼されたもんだな」

「アディ殿は美少女の周りを倒すことはあっても美少女を倒すことはないと聞いている。エリー様の護衛ならば心配事は何もない」

「…………」


 昔リリスを守るために冒険者を倒しまくった過去があるので言い返せない。

 あの事実は思いのほか俺の印象に多大な影響を与えているらしい。


 まあ、当たり前か……。


「わかった。それじゃエリー、よろしく頼むな」

「任せるのじゃ!」




 街に繰り出すと、エリーの案内で色んなところを見て回った。

 エリーが好きなものを中心に紹介してもらったので、ほとんどは食べ物がおいしいお店や、景色のいい場所とかそんなのだ。


 うちの女性陣とエリーは早々に仲良くなった。

 今はリリスと手を繋いで、とても楽しそうにこの国のことを話してくれている。


 どうやらエリーに友達が少ないと言うのは本当らしい。

 そのせいか新しい友達が出来たのが思いの外嬉しいようで、俺は泣いた。


 遊んでいると時間が過ぎるのは早く、気が付けば空が茜色になっている。


「じゃ、こんな時間だし城まで送っていくか」

「何じゃもう終わりなのか?つまらんのう」

「また明日も遊べるから。お城の人たちも心配するし、ね?」

「しょうがないのう」


 俺たちの中でもリリスはエリーと特に仲良くなったようだ。

 妹のようにでも思っているのかもしれない。


 それからエリーを城まで送って行って、俺たちは宿を探すことになった。

 兵士たちに聞いたおすすめの宿を何件か周って確保。

 その日は就寝した。

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