美少女暗黒騎士、抜け駆けをする
エルフの里から帰還して数日が経っている。
あれから俺たちは新しく仲間になったエルフ娘のサラがジミーダ村に住むためのあれやこれやを手伝っていたので、まだ冒険には行っていない。
そして今、俺は自室にてある問題に直面していた。
「どうすんだよこれ……」
テーブルの上には白い布。
そう、暗黒邪竜からもらったサラの下着である。
あの時は男のロマンだとか何だとか神秘的な物を感じて思わず受け取ってしまったけど、別にゲットしたからといってどうするわけでもない。
かといって捨てるのも心許ないし……。
「どうしたもんかな……」
色々と思案していると、部屋の扉がノックされた。
今は誰も遊びに来ていないので、相手はリリスだろう。
「どうした?」
「し、失礼します……」
リリスは遠慮がちに入ってくると、後ろ手でドアを閉める。
それからベッドに腰かけた。
どんな用があるのだろうかとじっと見ていると、リリスは俺と一度目を合わせて俯き、頬を赤く染めながらもじもじと語り始める。
「い、いえあの……特に用事、とかは、ないんですけど……最近二人でゆっくり、話せる時間があまりなかったから……その、すいません……」
……何ということだ……。
すでに汚れきっていると思っていた俺の心の片隅に、まだピュアだったあの頃のままな部分が僅かながら残っていて、それが急激に俺の胸を締め付けてくる。
まるで俺は酒にでも酔っているかのように、リリスとの間に流れる甘い空気に身を委ねてしまう。
俺はリリスの横に腰かけると、その細い肩に手を回した。
「ゆ、ゆ、勇者様!?」
顔を耳まで赤くしながら動揺するも、拒絶はしない。
リリスは、そのままゆっくりと俺に身体を預けて来た。
「リリス……俺はな、お前の事が本当に大切なんだ……」
「は、はいっ……」
これは嘘じゃない。
可愛いとは思っているが、あまりにもいい子過ぎて良心が痛むから手を出せないだけだ。出来れば一人の女の子をちゃんと大事に出来るような、本当にいい男とくっついて幸せになって欲しい。
でも、今のままだと変な男に騙されそうだから、いい相手が見つかるまでは俺の側にいてもらっているだけ。
……のはずなのに。今この瞬間に俺は、口説くような言葉をリリスに向けてたたみかけていた。
「お前の事は……ラーメンで言えばチャーシューみたいなもんだって思ってる」
「トッピングの内の一つに過ぎなかったはずなのに、今ではもはやなくてはならない存在で……人によってはむしろ無いと死ぬ……ということですね。ありがとうございます……」
「ああ、そうだ……お前はチャーシューだ……」
リリスは恥ずかしそうにしながらも、潤んだ瞳でしっかりとこちらを見据えていた。それからそっと震える唇を開き、俺に思いの丈を告げる。
「わ、私にとっての勇者様は……パン、です……」
「もはや主食。生きていくうえでは絶対に欠かすことの出来ない存在、ということか……例えがシンプル過ぎるとはいえ、だからこそ気持ちがダイレクトに伝わってくるな……」
「ありがとうございます……」
「リリス……」
「勇者様……」
肩に手を回したまま、俺は自分の唇をリリスのそれに近づけていく……。
リリスは、ゆっくりと目を瞑った。
「二人とも何を言ってるのかよくわかんないんだけど……」
いつの間にか部屋の入り口にマリアがいて、呆れ顔で俺たちを見つめている。
「いやああああぁぁぁぁっ!!!!」
リリスは恥ずかしさのあまり、悲鳴をあげて飛ぶように俺から離れた。
「抜け駆けとはやるじゃない、リリス」
「お前いつの間に来てたんだよ」
「あら、ちゃんと玄関でノックしたわよ。でも誰も応答してくれないし、かと言って二人はいるっぽいからまさか……と思って侵入してみればこの有様ってわけ」
するとマリアの後ろから更にもう一つ、のんびりした声が。
「あらあら~お邪魔しま~す」
「サラまで……」
「ちょうどいい食材が手に入ったので、皆さんとどうかと思いまして~」
「ところがねサラ、私が邪魔をしなければアディ様はそのままリリスを食材のごとく召し上がるところだったのよ」
「いや別にうまくねえから。なんでドヤ顔なんだよ」
「あらあら~それじゃ後で私たちも召し上がっていただかないと~」
「後でと言わず今すぐ召し上がっていただこうじゃないの!さあ早く!」
マリアが俺に飛び乗って来た。
これじゃどっちがどっちを食べるのかわかんねえな……。
「では私も~」
便乗してサラまで飛び込んでくる。
すると今まで部屋の隅で小さくなっていたリリスが俺たちの方を向いて、
「だっ……だめ!!」
と言いながらこちらに寄って来た。
「いやああああぁぁぁぁっ!!!!」
そんな俺の悲鳴が、夜のジミーダ村に響き渡ったのである。
何とか事なきを得、みんなが帰ってリリスも寝静まった深夜。
俺は外にいた。
今俺の周りにいる女の子たちには手を出せない。
だからその欲求不満を何とかするために、こうしてたまに夜のフェスティバル的なお店に出かけるのだ。
まあ以前そうだったみたいに、俺が夜な夜な出かけていることはリリスにはバレているのかもしれないけど……こればかりは見過ごしてもらおう。
そう思いながら店に向かって歩いている時だった。
向こうから見知った顔が歩いて来る。
冒険者仲間の中年親父だ。
俺はリリスを守るために数多の冒険者を切り倒した過去があるので、基本的には同じ冒険者からは嫌われている。しかし、最近は王国でいい魔王を助けた話や、真面目に冒険者として活動しているという実績のおかげで、いくらか話しかけてくれるやつも出てくるようになった。
このおっさんがその一人だ。
「よう、アディじゃねえか。お前もこれからあの店か?」
「ああ、そんなところだ。おっさんは帰りだな」
そこで立ち止まって少しだけ世間話をしていると。
「そういやアディ……知ってるか?ここだけの話なんだが」
「何だよ」
「あのレオナルドが魔王になったらしい」
「レオナルド……!?それって……」
「ああ……」
「誰だ?」
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