ろくでなし勇者、怒りの一閃
そう、それは紛れもなく女性ものの下着だった。
暗黒邪竜は「あの時助けていただいた者です、これをどうぞ」と言わんばかりの表情でこちらを見ている。
段々と遠くなる、ドドンゴとベアーが戦う音。
(ガウガウッ!!!!)
(うおおおおお!!)
「さすがはハッスルマッスルベアー、やっぱり強いわね……」
マリアの声も今は遠い。
この下着が誰のか、など聞くまでもない。
さっき暗黒邪竜がどこかに消えた理由がこれを取りに戻るためだとしたら。
居なくなっていた時間から考えればほぼ間違いなく……サラのものだ。
今なら女性陣はこちらを見ていない。
俺は、犬が口に咥えているそれを手に取った。
(ガウーッ!!!!)
(グッ……さすがに強い!!だが調子に乗っていられるのも今だけだ!!)
ドドンゴの戦いをハラハラした様子で見守るリリスが叫ぶ。
「ゆ、勇者様!そろそろ攻撃した方がいいのでは!?」
「いや、待て!まだだ!今俺が行けばあいつの努力も無駄になっちまう……!」
そう、この犬の善意も……!
俺はサラの下着らしきものを確認し、暗黒邪竜の頭を撫でた。
(グオオオオォォォォ!!!!)
(ぐうっ!!くそっ!!やばい!!もうダメだー!!みんな来てくれー!!)
「ちょっとやばくない?ていうか来てくれとか言ってない?」
「ドドンゴちゃん、大丈夫かしら~」
マリアとサラが何か言っているが、俺はそれどころではない。
俺は今、男のロマン溢れる財宝を手にしたのだから……。
ぱんつをゲットしてどうするんだとかそんな事は考えてはいけない。
存在するだけで意味があるのだ。
「お前いいやつだったんだな。ありがとうな……」
「ワン!」
俺は財宝をポケットにしまっておいた。
何だか今日はいい日なのでそろそろ帰ろうかと思ったその時。
「きゃあっ!!!!」
「うおおお!!!!」
女性陣の悲鳴と共に、俺たちのいる草むらにドドンゴが吹っ飛んできた。
もしかしなくてもベアーに飛ばされたのだろう。
俺は思わず叫んだ。
「ドッ、ドドンゴオオオオオオオオ!!!!」
やっべ、完全にこいつのこと忘れてた……。
そりゃこいつがずっと一人でベアーの攻撃に耐え続けられるわけないわな。
「くそっ、よくも、よくも俺のマブダチを……」
ドドンゴはどうやら気を失っているようで、動かない。
熊はこちらに来てドドンゴの姿を確認すると、俺たちに気付くこともなく一直線にそちらへと走り出した。
「絶対に許さねえ!!」
俺は鞘から剣を引き抜き、走るベアーの横から全力で振り下ろした。
「『怒りに満ちた通常攻撃』!!!!」
「シュゴオオオオオオオオッ!!!!」
ハッスルマッスルベアーはあっけなく倒れた。
俺は地面に転がっているドドンゴの下へ走り寄る。
「ドドンゴ!!ドドンゴ!!大丈夫か!!しっかりしろ!!」
「うっ……何とか大丈夫だ」
生きてた~危ねえ~。
「すまねえ、俺が不甲斐ないせいで……」
まさか下着に夢中でお前のことを忘れるなんてな……。
「へっ、何言ってんだ。タイミングばっちりだったじゃねえか。驚いたぜ」
「えっ」
「またまたとぼけやがって……わかってたんだろ?中々攻撃が飛んでこないから、タイミングが掴みづらいのかと思ってよ。一撃だけわざとまともにもらって、あえてこっちに吹っ飛ばされた……今のは気を失ったフリさ。お前はそれをわかってたから待機位置もジャストで、最後はしっかりベアーを仕留めてくれたと」
ぱんつにつられて後ろから来た暗黒邪竜に寄り添ってただけなんだけど。
「そうだったんですね……!すごいです!勇者様!私、なんでまだ攻撃しないんだろうなんて思っちゃって……恥ずかしいです」
「さすがね、アディ様」
「あのドドンゴちゃんと心を通わせるなんて……素敵な方ですね~
「いやあ、殴られる親友を時が来るまでただ見守ることしか出来なかったのは本当にきつかったよ……しかし、俺もまだまだ未熟だな……今回も『勇者アイ』に頼っちまった」
「わあ!出ましたね、『勇者アイ』!!私も使えるようになりたいなあ」
何か知らんがまた無駄に褒められている。
そろそろボロが出そうだから『勇者アイ』の乱用は控えようと思った。
この後も俺たちは同じ要領でベアーを倒しまくってゴブリンの餌場を無事に取り戻すことに成功。今はゴブリンの住処に戻ってゴブリン族の族長にその報告をしているところだ。
「我々ゴブリン族の中でも特に気の難しいドドンゴと心を通わせ、息を合わせるとは……さすがは勇者といったところか……」
餌場で最初のベアーを倒した時の話をすると、えらく感心された。
「ドドンゴってそんなに気難しいのか?別にそんな感じはしなかったけどな」
「こいつは小さい頃から全然友達がおらんくてな……何しろ周りの子供からおやつをくれと言われても絶対にゆずらんやつじゃったから……」
なるほど、俺と同じタイプか……それなら気は合うかもしれないな。
まあ、ベアーとの戦闘の時は完全に偶然だったから話は別だけど。
一通り報告を終えると、サラが俺たちに向き直って一礼をする。
「突然で無茶なお願いを聞いてくださり、ありがとうございました~これで私も心おきなくエルフの里に戻れます~」
「別に構わないけど、あんまり父親を心配させんじゃねえぞ。それじゃ帰ろうぜ」
こうして俺たちはエルフの里にサラを連れ帰って来た。
ちなみに、サラがモンスターたちと仲が良い事はまだ秘密にしておいて、今回は多少強引ではあるけど道に迷って軽く遭難してた事にしている。
「本当に今回の事は何とお礼を言えば良いやら……」
「その辺は冒険者組合から報酬が出るから、気にすんなよ。それじゃ俺たちは帰るから。サラ……」
と、別れの挨拶をしようとサラの方を向いた時だった。
サラが、俺の胸に飛び込んで来たのだ。
「サ、サラちゃん!?」
「あらあら、サラもやるわねえ」
慌てるリリス。
マリアは明らかに面白がっている様子だ。
「アディさん……どうか、私を連れて行っていただけませんか?」
またもチョロ展開……?
何で俺と知り合う女の子はこうもチョロいのだろうか。
俺はもうちょっと口説くのに苦労するような、冒険者組合の受付のお姉さんみたいな人がタイプなのに。
「どうしたんだよ……また何で急に。しかも父親の目の前で」
「お父様の目の前だからこそ、ですよ~」
「どういうことだ?村長」
「ふむ……」
村長は無駄に蓄えた髭を撫で、少し間を置いてから続けた。
「サラはこのままだと村長の座を継いでもらい、この里にいる若いもんと結婚することになるが……それが嫌なのじゃな?」
「はい、今までも里の外から来た人とお会いすることはありましたけど……アディさんみたいに強くて、すぐに誰とでも仲良くなれる清い心を持った人は初めてなので~。私、アディさんと結婚して里を出ますね~」
「ええっ、そ、そんなのダメ!!ゆ、勇者様は私と……」
「あらあらどうしたのリリス?私と?」
マリアはにやにやとからかいの笑みを浮かべている。
「うう……」
「あらあら、私は独占する気なんてありませんから~みんなと結婚していただけばいいじゃありませんか~」
「お前ら……俺抜きで話を進めてんじゃねえよ」
「まあわしとしても娘には好きに生きて欲しいと思うておる。それに、強いけどろくでなしと聞いておった勇者様も、実際には頼りになるお方じゃしの。相手としては申し分ないじゃろう」
「誰がろくでなしだって?」
何か最近会って間もないやつに喧嘩を売られる機会が増えたな。
「まあ、私みたいにとりあえずジミーダ村に適当に家借りて一緒に冒険行けばいいんじゃない?仲間が増えるのは歓迎だし」
「ふふふ、ではそうさせていただきますね~。アディさん、これからよろしくお願いします~」
「…………」
不満顔のリリスを差し置き、強引にエルフのおっとり娘が仲間になった。
いや、なるのはいいんだけどよ……何かまた手出せそうにないのがな……。
ハーレム要員はどこかに落ちてないものだろうか。
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