ろくでなし勇者、犬を助ける
ゴブリンたちの餌場となっている場所はエルフの里とは逆方向の、とある森の中にあるらしい。
メンバーは俺たち三人にサラ、ドドンゴ、そして暗黒邪竜だ。
ドドンゴは重装備で全身を固めているので、歩みが遅い上にがっしゃがっしゃと中々にうるさい。
先頭は俺とドドンゴ。
森に向かってのんびり雑談なんかをしながら歩いていると、暗黒邪竜が列を離れてあちこちを散策し始めた。
「おい危ないぞ、どこにモンスターがいるかわかんねえんだから」
「ほらクロちゃん、こっちにおいで~」
珍しくリリスの言うことも聞かず、スケベ犬は落ち着かない様子で辺りを忙しなく歩きまわっている。
すると突然、何やら犬が草むらに向かって吠え始めた。
まさか……!
「おいそこを離れろ犬っころ!」
「キシャーーーーー!!!!」
草むらからはビッグ・ザ・カマキリという、かなりビッグなカマキリのモンスターが現れた。スケベな犬なんかは一撃で倒してしまう程の攻撃力を誇る、両腕の鎌が特徴的だ。
「クロちゃん!!!!逃げて!!!!」
リリスが魔法を撃てば間に合ったんだが、暗黒邪竜のピンチに軽いパニックを起こしている。
間に合うか……?俺は走ってカマキリに向かった。
カマキリが両腕の鎌を威嚇するかのように広げ、犬を目掛けて振り下ろした瞬間のこと。
鎌が犬に届く寸前で、俺はカマキリにタックルをかました。
相手が体勢を直すまでの間に、俺は鞘から剣を引き抜いて構える。
そして。
「『強めの通常攻撃』!!!!」
「シュゴーーーーーー!!!!」
モンスターの消滅を確認して俺は剣を鞘に戻し、犬の方を向いた。
「お前大丈夫か?怪我とかしてないか?」
「くうん……」
今回はちゃんと俺の方を見ている。
そして何だか申し訳なさそうな表情をしていた。
実は俺はタックルをかます瞬間に敵の鎌で負傷している。
防御力も高い俺は別にこれくらい大したことはないんだけど、犬はどうやらそれを気にしているようだった。
「これぐらい大したことねえよ、それよりあんまうろうろするんじゃねえぞ」
俺がそう注意すると、犬は尻尾を振りながらなぜか来た道を戻って行く。
「クロちゃん?」
リリスの声にも応えずに犬は途中からダッシュになり、その姿はすぐに見えなくなってしまった。
「まあ街道から外れてるところをうろうろしなきゃ大丈夫だろ。あいつは鼻もいいから道に迷うことはないし、里にでも帰ったのかもな」
「でも何であんなに突然なのかしらね。まあ放っといて先に行きましょ」
マリアの声で進軍を再開した俺たちは、ようやく森の入り口にたどり着く。
「ここからは俺たちと敵対しているモンスターも増える。警戒してくれ」
「わかった」
ドドンゴが先頭となって道案内がてら周囲を警戒する。
しかし、ドドンゴたちと敵対しているモンスターと遭遇することはほとんどないままに、目的の餌場へとたどり着いた。
「これは……この森にいる他のモンスターが、ハッスルマッスルベアーにほとんど倒されたのかもしれないな」
俺はどちらにしろ一撃で倒せるのでわからないが、ハッスルマッスルベアーはかなり強い部類に入るモンスターらしい。
そんなモンスターがまとめて数頭もいたりすると、彼らと敵対するモンスターがほとんど倒されてしまっても不思議はないのかも。
「では俺はここでやつが現れるのを待つ。お前らはその辺りに隠れて待機して、出て来たら俺が攻撃を受けている隙に倒してくれ」
「わかった」
「一つだけ注意しておく。ベアーは警戒心が強くて勘も鋭い。俺が攻撃を受けてからすぐじゃなく、少し間を置いて完全に引きつけてから攻撃した方がいいぞ」
「ああ、気を付けるよ」
ドドンゴの指示通りに俺たちはその辺りの草むらの陰に隠れた。
ちなみに、今回のポイントとなるこの餌場でゴブリンやベアーがいつも採取しているのは「パフの実」という、『美味な棒』の原材料にもなる実だ。
皮をむくと、まるでとうもろこしを粉にして水と熱と圧力をかけて発砲させたような不思議な食感の実が現れる。この実を棒状に加工して味付けをしたものがジミーダ村名産の『美味な棒』というわけだ。
その実のサクサクとした独特の食感は多くの者を魅了し、人間を超えてどうやらモンスターにまでも人気があるらしい。
ジミーダ村の周辺なら近くで大量に取れるんだけど、この辺りだとここくらいにしか生えていないとのこと。
まあ、餌というよりは大好きなおやつ争奪戦といった感じだろうな。
俺たちが草むらの陰で息を潜めていると、ついにハッスルマッスルベアーが餌場に姿を現した。ドドンゴとベアーが対峙し、高まる緊張感。
しかしその時、俺たちの後ろからも何かの気配がした。
「っ!?何だ!?」
俺は三人を庇うように音のした方向に歩み出る。
しかし、現れたのは暗黒邪竜だった。
「は~何だよお前、驚かせんなよ」
「あっ!!ドドンゴさんが戦闘に入りましたよ!」
「リリス落ち着け、少し待ってからって言われてんだから」
「ドドンゴ、本当に大丈夫かしら~」
「かなり丈夫そうな鎧来てるし、大丈夫だと思うわよ」
俺以外の三人はドドンゴとベアーの方に注意を戻した。
会話が聞こえてくる。
(ガウガウッ!!)
(さあ来い!俺たちの餌場を奪いやがって!覚悟しろ!)
しかし全く動かずにフンフン言っているので、振り向いて暗黒邪竜をよく見ると何やら白いものを口にくわえている。
「お前、それってまさか……下着か?」
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