勇者一行、ベアー討伐へ

「えっと……サラは、どうしてこの辺りのモンスターと仲良しなんだ?」

「……どうしてでしょう~?」


 まさかの聞き返し。

 じっと待っていると「ああそういえば~」とサラが続けた。


「小さい頃、森で迷子になった時、ここのゴブリンたちに助けてもらったのが始まりだと思います」

「ゴブリンが小さい子供を助けるなんてこと、あるの?」


 確かにマリアの言う通り、そんな話は聞いたことがない。


「ここの子たちはとっても紳士なので~人間には嬉々として襲いかかりますけど、明らかに弱ってる場合や子供には、手を出さないそうですよ~」


 まあ人を襲っておいて紳士とは……とも思うけど、サラが実際に助けられたというならそうなんだろう。嘘をついている気配はない。


「でもでも、モンスターと人間が仲良くなんて何だか微笑ましいお話ですね!」


 リリスの価値観は俺には理解できないな。

 別にモンスターと仲良くしたいとは思わないし。


「ふふふ、そうですね~私はここのゴブリンを始めとして、エルフの里の周辺をうろついているモンスターのいくつかの勢力とは仲がいいんですよ~もちろん一部だけですが」

「まあそんなやたらモンスターと仲いいエルフがいたら話題にも問題にもなるだろうし……。じゃあこの事を村長は知らないんだな?」

「実は小さい頃からずっと内緒にしているんです~お父様はおろか、誰にも話したことはありません……最初は何だかいけない事をしているみたいで内緒にしていただけだったのですが、大きくなるにつれて良くわかったんです。ここの子たちはあまり強くないから、私と仲良くしていると知ると討伐されてしまうなって~」

「まあ正しい判断だろうな」

「それで、今まで遊びに行くときは数時間で戻っていたのでバレなかったのですが……今回はここの子たちの種の存亡に関わるということで、ずっと相談に乗り続けていたら何日も経過してしまって~」


 何だかマリアとは違う種類のやばさをサラから感じるようになって来た。

 どうして俺は知り合う女がこんなのばっかなんだ。


 全員見た目はいいんだけどな……。

 とにかく、サラも見つけたことだしこの件はとっとと終わりにしよう。


「まあ元気ってことがわかって良かったよ。じゃ一旦エルフの里に帰ろう。森で迷子になったとか言って村長に顔見せて、それからまたここに戻ってくればいい」


 立ち上がりならそう言ってサラの方を見ると、座ったまま、今までの穏やかな表情を少しだけ崩して何かを思案している。


 何だか嫌な予感がするな……。

 サラはやがて顔を上げて俺を見ると、決心したように口を開いた。


「あの、勇者様方……厚かましい事を承知の上で申し上げます!どうかここの子たちのために、ハッスルマッスルベアーを倒してはいただけませんでしょうか!」


 やっぱりそう来たか……正直、美女の頼みじゃなかったら速攻で断っている。

 何でゴブリンどもを助けにゃならんのだ。

 

 でも、俺を追い出した王国の時みたいに自業自得ってわけでもないから、こちらから断る理由もあまりない。


 とは言え……どうにかうまく断れねえかな。


「勇者様……!」


 うわっリリスやめろ……そんな目で俺を見るな!!

 俺は見知らぬ、ましてやモンスターのために頑張れる様な人間じゃねえんだ!


「ふふ、アディ様がどうしたいか、私たちはもうわかってるわよ」


 本当にわかってんのかこいつ……だったら俺はもう帰るぞ。

 

 俺が答えに窮していると、サラが立ち上がって歩み寄り、俺の手を取った。


「お願いします……」


 うっ……特にリリスの眼差しが痛すぎてこりゃ断れないな。


「しょうがねえな……その餌場とやらの場所を教えてくれ」


 すると、サラは先ほどのような柔らかい笑顔に戻った。


「……!ふふ、ありがとうございます」




 俺たちがゴブリンを手助けすることが決まると、ゴブリン族の代表者も交えて作戦会議が行われた。


「先ほどはうちの若者が失礼をした。私はここのゴブリン族の族長を務めている者だ……よろしく頼むぞ、人間の方々」


 ゴブリン族からは族長と名乗る年老いた一匹と、何やらずっしりとした体形のゴブリンが一匹だけ参加している。


「あなたたちはかなり強いと聞いている。特にアディさんは、何でもかつて勇者と呼ばれていたのだとか……とはいえ、サラの友人だけに任せるのは私たちとしても心苦しい……」


 こいつら俺を知らないんだな……。

 まあ出会ったモンスターはほぼ全部倒して来たし、魔王が統率を取ってなくて情報の行き渡ってない今は知らないやつがいても不思議じゃないか。


「そこでだ、こちらからも一人手伝わせよう。こちらのドドンゴは耐久力だけには自信があって、ここのゴブリン族の中では頭一つ抜けている」


 すると、ずっしりとした体形のゴブリンが一歩前に出て名乗った。


「ドドンゴだ。よろしく頼む」

「よろしくな」「よろしくお願いします」「よろしくね」


 俺たちも挨拶を返す。

 正直助っ人は必要ないというか、無駄な犠牲が出るだけだと思うんだけど。


「いくらアディさんでも、ハッスルマッスルベアーの攻撃はかなりきついと思う。そこで、このドドンゴを使ってもらいたい。ドドンゴに囮をやらせて、隙を見せた相手を一気に叩くのがいいだろう」

「今までその戦法は試さなかったのか?」

「私たちでは攻撃力が足りん。それに当然ドドンゴでもあのモンスター相手に長時間耐えるのは無理だ。敵を倒すまでにドドンゴが倒れてしまう」

「なるほどな。わかった、さっさと行って片付けようぜ」


 そうして俺たちはゴブリンの巣を離れ、餌場へと向かった。

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