銀髪おっとり美女、発見される
気を取り直して捜索を再開。
今度こそ飼い主であるサラの匂いを見つけたのか、犬は森の中に入って行った。
どこまで行くつもりなのだろうかと思いながら樹々の間を縫うようにして歩いていると、そのまま外に出てしまう。
まだまだ止まらない暗黒邪竜について行くと、やがて俺たちは一つの洞窟の前にたどり着いた。
「クロちゃん……ここにサラって子がいるの?」
「ワン!」
リリスの言葉を暗黒邪竜が元気に返す。
「本当にこんなところにいるのだとしたら……いなくなってからの日数を考えてもちょっとまずいんじゃないかしら……生きていたとしてもまず元気ってわけにはいかないでしょうね」
「モンスターに襲われて捕まったのかもしれないな……しかし、それで仮に今も生きてるとしたら……美女にあんなことやこんなことを!?おのれモンスターめ!俺も混ぜ……じゃなくて切り倒してやる!リリス、マリア!ぼさっとするなよ!俺について来い!」
「「はいっ!!」」
洞窟の中は薄暗いものの、ところどころに松明などがかけてあって何も見えないという程じゃない。
「さすが勇者様、サラって子が心配でいてもたっても居られないみたいですね」
「本当にアディ様は優しくて正義感が強いわよねえ」
後ろから都合のいい会話が聞こえてくる。
隊列は、俺が先頭で後ろからリリスとマリアがついて来る形だ。
突然何が起きても俺なら大体は対応出来るからな。
そんなわけで自然とスケベ犬も後ろにいる。
やがて、少し開けた空間に足を踏み入れたと思った直後のこと。
「ケケケ!何しに来やがった人間め!」
「あ!?」
目の前にゴブリンが飛び出して来た。
こん棒というお粗末な武器を俺目掛けて振り下ろす。
「『すごい防御』!!」
「しゅ、しゅごい……」
両腕で容易く防御完了。
そして俺は腰に下げた剣を鞘から引き抜き、敵に向かって振り下ろす。
その動作の最中、空間の奥から何だか場違いな声が聞こえて来た。
「あら~お客様かしら?お待ちになっ」
しかし、一度振り下ろした剣は止められない。
「『なるべく抑えめの通常攻撃』!!!!」
「それでもしゅごいいいい!!!!」
倒れるゴブリン。
手加減はしたから死んではいないはずだけど……。それよりも。
「今の声は……?」
そう、奥の方からしたのは明らかに女性の声だった。
ということはまさか……。
「あらあら、話も聞かずに襲い掛かるから~ごめんなさいね、お客様」
その何だか気の抜けてしまうようなほのぼのとした声の持ち主は、倒れたゴブリンの向こう側に立っている、一人の女性だ。
松明のぼんやりとした灯りの中でも綺麗に輝く銀の髪は糸のように細く、目尻の下がった目は穏やかにこちらを見つめている。
「何だか足音がするから様子を見に来たんです。そしたらこの子がいきなり襲い掛かっちゃって……お強い方で良かったですわ~ふふふ」
すると、後ろにいた暗黒邪竜が出て来てその女性に飛びついた。
「暗黒邪竜ちゃんじゃないの~こんなところまでどうしたのかしら」
「もしかして……あんたがサラか?」
「あら、私の事を御存じでしたか~それではどうぞ奥へ。何もないところですがゆっくりしていってくださいね~」
「「「????」」」
俺たちは思わず顔を見合わせた。
わけがわからん……一体どういうことなんだ?
それからサラは、俺たちを洞窟のさらに奥にある空間へと案内してくれた。
どうやらここはモンスターたちの居住区の様なものになっているらしく、人間が使うのと同じような家具や調度品も見られる。
ここに来る途中、あちこちから「人間だ!人間だ!」とか「サラの知り合いなら襲っちゃだめなんだぞ!」と言った声が聞こえていたし、どう考えてもこの洞窟はモンスターのアジト的なもので、サラ以外には人間も亜人もいそうにない。
サラは居住区の中の一室に入り、そこに置いてあるテーブルに俺たちを座らせると、お茶を汲んで戻って来た。
「どうぞ~つまらないものですが~」
「あ、ああ、どうも」
とりあえず差し出された、正直そこまで美味しくないお茶を一口だけ飲んでから俺たちは軽く自己紹介をした。
それから話を切り出していく。
「えっと……まずサラ、怪我とかはないのか?」
「怪我……ですか?全くありません~どうしてその様な質問を?」
サラに、俺たちがここへ来た経緯を説明した。
「まあ、お父様ったら私の捜索依頼を……そうでしたか~ご苦労様です」
「それで、サラは何でこんなところにいるんだ?」
「ここに住んでいる子たちから相談を受けていたんです」
「相談?」
「はい……何でもこの子たちの餌場がハッスルマッスルベアーに荒らされて困っているのだとか」
ハッスルマッスルベアーというモンスターは、かなりマッスルでしかもハッスルしているベアーだ。ゴブリン程度じゃどうにもならないだろうな。
モンスターであろうが人間であろうが邪魔なやつを全て倒して来た俺は最近まで知るわけもなかったけど、モンスターの間でも対立が起きたりするらしい。
魔王……ここでは本当の魔王である味噌ラーメン醤油味のことだけど、あいつにはモンスターを統率する力があったはずだ。
でもあいつは契約を守ってさえいれば、担々麺ニボニボ塩風味みたいに力を与えた新しい魔王でさえ好き勝手をさせている。どうやら自分の動きたい時以外はモンスターたちは放置しているらしい。
今回も、放置されているモンスターたちが餌場を巡って争いを起こし、その相談にサラがここに呼ばれた、ということなんだと思う。
「でも……何でそれをサラ……さんに相談するんですか?」
リリスの言う通りだ。
俺もそれが聞きたかったので、何も言わずにサラの返事を待つ。
サラはのんびりとお茶で口を湿らせた後、柔らかく微笑んでから答える。
「サラでいいですよ~私、小さい頃からこの辺りのモンスターと仲良しなんです」
これまた意外な返事が来た……。
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