伝説の勇者、何かに気付く

「誰って……王国で前の王が雇ってた新しい勇者だよ。お前が倒したって話の」

「ああ、あいつレオナルドって名前だったのか……それで、そいつが何でまた魔王になっちまったんだ?」

「何でって……そりゃ知らねえけど、大方お前への復讐だろうよ。王国を追放されてからのレオナルドと前国王はそりゃ悲惨な目にあったらしいからな」


 まあ、圧政と重税で王国民を散々に苦しめたんだ、平和には暮らせないだろう。

 レオナルドは雇われてただけだから、完全にとばっちりってとこか。


「教えてくれてありがとよ。せいぜい気を付けるわ」

「とか言いながら随分と余裕じゃねえか。まあ、今更お前に怖いもんなんてねえか……じゃあな」


 おっさんは片手をあげながら夜の町に消えて行った。


 俺が危機感を覚えていないのは、もちろんどんなやつが襲って来ても勝てる自信があるからというのもある。でももう一つ、いくら俺に復讐をしたいというのが本当だからと言って、ジミーダ村を襲うのは効率が悪すぎるからだ。


 味噌ラーメン醤油味と契約して新しく魔王になったものには、やつが指定した味のラーメンをより多くの人間に食べさせて布教をするという義務が契約の代価としてつきまとう。


 そういった事情があるので、余程のアホじゃない限りはまず人の多いところから襲ってラーメンを食べさせていくはず。


 だから真っ先にジミーダ村が襲われるということはほぼない。


 それよりも俺は、復活したらしいのに自分から動かない味噌ラーメン醤油味の動向の方が気になるが……どうせ新しいラーメンの開発に忙しいとか、そんなところだろう。


 その後、いつもの大人のお店にて夜のカーニバルを満喫して朝になる前に帰宅。

 少しばかりの睡眠を取ったらもう朝食の時間だ。


 最近だと昼飯や夕飯の時間は大体サラやマリアがいるものの、朝食は二人とも起きて来られないらしく、リリスと二人きりで食べるのが基本になっている。


 そんな朝食時のことだった。


「あ、あの、勇者様……」

「どうした?」

「その……私では、ご不満ですか……?昨夜はあんなに甘い言葉をかけてくださったのに……」


 そんなに甘かっただろうか……何だかチャーシューとか言ってた気もするが。


 それはさておき。


 やはり夜に遊びに出かけていることはバレてるみたいだ。

 昨日は何だかいい雰囲気になってしまったので、そのまま自分と夜のフェスティバルが開催されなかったことが気になるのだろう。


 ここは正直に気持ちを打ち明けよう。


「リリス……俺はな、今でもお前のことを可愛いと思ってる。それに純粋で優しくて……すごくいい子だとも思ってるんだ」

「は、はい……」


 リリスは頬を赤く染め、少し俯きがちになって俺の話を聞いている。


「だからこそな、お前にはいい加減な俺なんかじゃなくて、もっとお前だけを大切にしてくれる様なしっかりした男とくっついて幸せになって欲しいんだ」

「えっ……」


 何を言っているんだ、とばかりに驚きの表情に変わるリリス。


「どうしてそんなことを仰るんですか……?」

「いやだって、お前もわかってるだろ?正直に言うけど、俺は夜な夜な大人のお店に出かけて夜のカーニバルを開催してるんだよ」

「えっ……そうだったんですか?てっきり私、毎晩色んな女の人をとっかえひっかえして遊んでるのかと……」

「お前俺を何だと思ってんだ……いやまあどっちも変わんないのかもしんねえけどよ……とにかく、そういったわけだからリリスも俺みたいなやつじゃなくてちゃんとした男を探し」

「嫌です!!!!!!!!!」

「うおっ」


 この子、こんな大声出せたのか。

 あまりに突然の叫びに少しびびってしまった。


「ゆ、勇者様じゃないと、嫌です!!!!」

「何でそんなに俺がいいんだよ」

「だって、勇者様は初めて会った時からいつも優しくて……強くて……かっこよくて……私の憧れだったんです」


 リリスは言葉の途中から、熱のこもった視線で俺を見つめている。

 うっ……何だ?昨日といい、リリスのこの瞳に直視されると何だかくらっと来るんだよな……もしかして俺はリリスの事が本気で好きに……?


「勇者様……本当に私が大切なら、私と……いえ、私を!!」

「待て待て!わかったから落ち着け、な?」

「……本当にわかってくださったんですか?」

「ああ。お前のことはちゃんと考えるから」

「…………」


 明らかに不満顔ながらも、リリスはやっと落ち着いた。

 何だか胸のキュンとする感じもおさまっていく。


 ようやく場がおさまったところで朝食を食べ終わると、俺たちは久々に冒険に出かけることにした。


 マリアとサラに声をかけてから冒険者組合へ。

 いつもの如く、三人を併設の酒場に待機させてから受付に行く。


 もちろんいつものお姉さんのところだ。


「よう、久しぶりだな」

「あらアディ様お久しぶりですね。エルフの里の依頼はお見事でした」

「あれぐらい楽勝だぜ。それより、今日はお姉さんに会いに来たんだ」

「まあ嬉しいわ。実は、私もアディ様をお待ちしていたんですよ」

「おっ、何だ珍しくノリ気じゃねえか。良かったら今晩にでも」

「そちらのお誘いもいいんですけど~、実は少し厄介な依頼が来てまして」

「やっぱりそういうオチか……」


 まあ、そう簡単にいくとは思っちゃいない。

 でも……これだ、これなんだよ俺が求めてるのは……。


 あんなチョロすぎてどこかおかしいような女の子たちより、こういう簡単にはなびいてくれないような子が好きなんだ、俺は。


「で、どんな依頼なんだよ?」

「ドワーフ共和国のお姫様の護衛です」

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