金髪美女、説教をされる

 翌朝、俺たちはエルフの里へ向けて出発した。


 エルフの里は周りを森に囲まれているらしく、里に着くまでにはいくつかの森林地帯を通らないといけないみたいだ。ただでさえ遠いってのに、面倒くさいことこの上ないな……。


 今はエルフの里へと続く街道を歩いているところ。


「なあ、一応お前らの魔法とか技の構成を確認しときたいんだけど……今までのクエストもほとんど俺がやってて、何だかんだで見せてもらってないだろ」


 結局は全部俺一人で何とかなるんだけど……知っておいて損はないだろう。

 まずはマリアから。


「私は支援魔法や治癒魔法が得意よ。いざとなればこの身体を使って色んな意味でアディ様を癒すことも出来るのでよろしくね」


 いざとならないことを祈ろう。

 次はリリス。


「私は暗黒騎士ですので……闇属性の攻撃魔法や、相手を状態異常にする魔法などが得意です……後は闇の剣技という技も使えます……」


 スキルには二種類ある。魔法と技だ。

 この内魔法は魔力を消費して使用し、技は体力を消費して使用する。


 まあ、俺にはあまり関係のない話だな。


「あ、あの……その、私もいざとなれば……身体で……」


 リリスは恥ずかしすぎてその先が言えないようだ。


「お前らは何ですぐそういう発想になるんだよ……もっと自分を大切にしろ」

「勇者様……やっぱり優しいんですね」

「アディ様、遠慮はしないでね」


 だめだこりゃ。




 やがて森に差し掛かった。

 これはエルフの里を囲む森じゃない、そっちはまだまだ先だ。


 街道から続く森だけあってきちんと人が通れる道もあり、草木の背もそこまで高くはない。そんなに危険の感じられない場所だ。


 虫の音が作る喧騒に耳を傾けながら、俺たちは自然の中を練り歩いた。


「うぅ……虫の鳴き声がする……」


 どうやらマリアは虫が苦手らしく、さっきから不安げな表情だ。


「まあ王都に長い事住んでりゃ虫は苦手になるだろうな」

「アディ様やリリスちゃんは平気なの?」

「私は……別に……」


 そんな会話をしている時だった。

 木陰から、のそっと大きな何かが現れる。


「キーーーーッ」


 巨大な蜘蛛、ファイティングスパイダーだ。

 スパイダー系のモンスターにも関わらず毒を持たないので危険性は少ない。


「悪いんだけど、ちょっとお前らだけで戦ってもらってもいいか?」


 丁度いい、二人の戦い方を見せてもらっておこう。


「はい!」「任せて!」


 リリスがマリアに指示を出す。


「マリアさん、支援魔法をお願いします!」

「わかったわ!『パワーライズ』!!……はあああぁぁぁっ!!」


 指示を受けたマリアは何故か自分に物理攻撃力をあげる支援魔法をかけると、そのまま突進していってしまった。


 呆然とそれを見送るリリス。


「はぁっ!」


 そしてマリアが杖でスパイダーを殴り倒し、戦闘は終了。

 虫苦手なんじゃなかったのかよ、こいつ。


「どうだった!?」

「どうだった!?じゃねーよ……何で自分で突撃してんだ。リリスに支援魔法をかけて戦ってもらえ」

「だって私も戦いたいじゃない!」

「じゃあ普通に戦士系統とかの前衛職をやれよ!自分に支援魔法をかけて突撃して行く支援職なんて初めて見たぞ!」


 すると途端にもじもじし出すマリア。


「それはその……支援職をやった方がモテるかなぁって……」

「は?」

「ムキムキでバッタバッタ敵を切り倒す女の子より、か弱くて健気に後方から支援してくれる女の子の方が可愛くない?」

「それもわからなくはないけど、その価値観を実際の戦闘には持ち込むな。せめて回復や支援の魔法はリリスに先にかけろ。わかったか?」

「わかったわ……」


 本当にわかってくれたんだろうか。

 マリアは少ししょぼくれているようだけど、こればっかりは仕方がない。


 ステータス的に見ても、支援魔法は暗黒騎士であるリリスにかけた方が得られる恩恵は大きいはず。


 ちなみに、支援魔法を俺にかけろと言わないのは単純に必要ないからだ。


 それから少し歩くと、都合よくまた一匹、ファイティングスパイダーが出現。


「よし、じゃあまた二人でやってくれ。マリアはさっき言った通りにな」

「はい!」「任せて!」


 また同じようにリリスがマリアに指示を出すと。


「『パワーライズ』!!……はあああぁぁぁっ!!!!」


 マリアはリリスに支援魔法をかけてから突撃して行ってしまった。

 戦闘終了後。


「どうだっ……痛ぁい!!!!」


 俺は笑顔で戻って来たマリアにげんこつを喰らわせた。


「ますます支援魔法の意味がなくなってんじゃねえか!自分で突撃するのをやめろ!!ていうかお前虫苦手なのはどうした!?」

「そんなの食べ物なんかと一緒よ……人参だって、そのままだと苦手でも料理に入ってると食べれたりするでしょ」

「その例えが今のと何か関係あんのか」

「だからね、普段の蜘蛛は苦手だけど、モンスターとしての蜘蛛なら倒せるってこと」

「そういうもんなのか……」


 そんなこんなで、今日はそれから森を出て丘を越え、平野に出たところでいい感じに視界の開けた場所を見つけたので、テントを張って就寝。


 マリアに襲われそうなので、俺だけテントの外で寝た。

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