勇者一行、森の中で迷う

 翌朝、何だかいい匂いがするので目を覚まして首を回すと、両隣でリリスとマリアが寝ていた。


 こいつらテントさんに申し訳ないとか思わねえのか……テントさんだって一生懸命頑張ってんだぞ。二人が冒険者組合の受付のお姉さんみたいなタイプだったらもっと素直に喜べたんだけどな……。


 それから二人も起床したので、朝飯を食べて出発。


 そんな感じの旅路を続けていると、ようやくエルフの里を囲む森の入り口へとたどり着いた。


「なんだかんだでそこそこに長い道のりだったな……」

「でもアディ様と一緒だったから楽しかったわ」

「あっ、わ、私も……楽しかったです……」


 相変わらずチョロい女の子たちの言葉を流しながら森に入って行く。


 先日の森とは違って今度は草木が鬱蒼と生い茂り、背の高い樹々の梢に陽光が遮られて全体的に薄暗い。一言で言えば不気味だ。


「何だか不気味ですね……」


 なぜか腕を組んでくるマリア。

 意外にもリリスはこういった場所は平気らしく、平然としている。


 今回は特にモンスターと遭遇することもなく歩いて行くと、やがて道がいくつかに枝分かれしている場所に出た。


 すると俺たちの目の前に、何か小さい火の玉ようなものがぼんやりと現れる。


「ひっ……」


 今度はマリアだけでなく、リリスまで怖がっている。

 やれやれしょうがねえな……。


「外界からの来訪者よ、ここを通りたくば汝らの……」

「『すごい通常攻撃』!」

「しゅごいいいいいい!!」


 火の玉の様な物は消失した。

 今何か喋ってた気がするけど……まあいっか。


「ありがとうございます、勇者様……」

「リリスはこの森の不気味さが平気なのに今みたいなのは怖いんだな」

「はい……暗黒騎士なので、暗いのとかは大丈夫なんですけど……幽霊とか得体のしれないものは普通に怖いんです……」

「そんなもんなのか……まあいい。それよりもこれ、どの道に行こうか」


 どの道に進むかをジャンケンで決めると、俺たちは真ん中の道から奥に進んで行った。するとまた似た様な分かれ道に出たのでジャンケンで左へ。するとまた同じ様な道に出たのでジャンケンで右へ。するとまた……。


「なあ、これ、何か魔法みたいなやつがかかってないか?」

「はい……さっきからずっと、同じ景色ですよね……」


 リリスは首を傾げている。


「もしかして、さっきアディ様が倒してくれたあれが森を抜ける為のヒントとかをくれるはずだったんじゃないの……?」

「まあ、そうなんだろうな……」


 とは言ってももう倒してしまったものはどうしようもないしな。


「う~ん……お菓子あげるって言ったらまた出て来てくれたりしませんかね?」

「リリス……動物じゃねえんだから」


 するとマリアが自分の荷物から何かを取り出して右手に持って掲げると、


「さっきの人~!『美味な棒』あるわよ~!」


 そう叫び出した。


「お前小さな子供じゃねえんだからよ、そんなんで」

「『美味な棒』と聞いて参った……」


 出て来た……嘘だろ……。

 まあいい。好都合だ。


「さっき何か喋りかけてただろ。あれの続きを頼む」

「『美味な棒』を我に捧げよ……さすれば汝の望みは叶うであろう……」


 マリアが『美味な棒』を火の玉に近付けると、まるで人が食べたように火の玉に近い方からボリボリと減っていった。


「ぬ……『初めてのキス味』ではないのか……まあいいだろう……」

「あんた変な味好きなのねえ」

「『初めてのキス味』が変だと……あれこそが『美味な棒』の神髄であろう……」

「いやいやいいから早くさっき言いかけたことの続きを頼むよ」


 火の玉はピタリと止まり、少し間を置いてから語り始める。


「外界からの来訪者よ、ここを通りたくば汝らの資格を我に示せ」


 俺はリリス、マリアと顔を見合わせた。


「資格……って何のことだかわかるか?」

「ごめんなさい、私には何も……」


 そこまでリリスが言ったところで、割り込むように火の玉が語り掛ける。


「『ピザ』と十回唱えよ……」

「は?何でだよ。ピザピザピザピザピザ……」


 十回言い終わると、火の玉が俺の肘に近づいて来て言った。


「ここは何という……?」

「えっ……肘だろ?」

「正解だ……道は開かれた……」


 地鳴りと共に、真ん中の道を行った先に森の出口が現れる。


「まじか……」

「何だったんですかね、今の……」


 リリスの疑問に誰も答えることが出来ず、無言で出口を目指した。

 森を出ると、一気に視界が光に包まれる。


 視界が回復すると、そこには素朴な建物が建ち並ぶ村の姿があった。


「ここがエルフの里か……」


 と俺が感慨に浸ろうとしたのも束の間。

 一本の矢が俺たち目掛けて飛んできた。


「きゃっ!」


 リリスの悲鳴。

 俺は咄嗟に剣を鞘から引き抜いてそれを撃ち落とした。


「おいおい何だ?随分な挨拶じゃねえか」


 そう叫びながら辺りを見回すと、矢が飛んできた方向から一人の青年がゆっくりと歩いて来た。


「お前たち、何者だ?どうやって門番の魔法を打ち破った?」

「門番の魔法……?」

「ここに来る前に火の玉が出て来ただろう。あいつを認めさせなければ、この里には入れないようになっている」


 あれ門番だったのかよ……大丈夫かエルフの里。


「あれならピザって十回言った後に肘って言ったら通してくれたけど……」

「何だと……!?あれを……あれをピザと言わずに肘と言えたと言うのか!?」


 青年は大分驚いている。

 そしてしばらく何事かを考えた後に口を開いた。


「救世主よ……今までの非礼をお許しください」

「いや、別にいいけど……救世主?」

「救世主というのもいいですけど……勇者様はやっぱり勇者様です!」

「リリス、話がややこしくなるから今は静かにしててくれ」

「勇者……?もしかしてあなた様は、あの『家畜以下』のアディ様で……!?」

「よし、お前そこに正座しろ。首をぶっ飛ばしてやる」


 しばらくそんなやり取りをした後に一旦落ち着くと、ここに来た目的である女の子捜索の依頼の話をした。


「そうでしたか……ありがとうございます。重ね重ね申し訳ありませんでした」

「もういいって。それより、これから俺たちはどうしたらいい?」

「では村長のところにご案内いたしましょう、そこでお話を聞いていただければ」

「頼む」


 そうして俺たちはエルフの里の村長のもとへと案内された。

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