勇者一行、新たなる冒険へ

 魔王の王国襲撃から数日が経過していた。

 

 あれから俺とリリスは新たなパーティーメンバーとしてマリアを迎え、三人でのんびりとクエストをこなす日々を続けている。


 続けているんだけど。


 俺のハーレム復活計画が全く進まない。

 リリスはいい子過ぎて手が出せないし、マリアは何だか怖くて得体が知れないのでそういう関係になるのは絶対にだめだ。


 しかし最近は禁欲生活が続きすぎてこの際マリアでもいいか?という気がしてしまうので本格的にまずい。


 そんな心の迷いをどうにかして断ち切らねばと思っていたある日のことだった。


「エルフの女の子の捜索?」


 冒険者組合のいつものお姉さんがいるカウンターでいい感じのクエストを探してもらおうとしたら、一風変わったものを薦められた。


「はい……何でも緊急の案件だそうで。エルフの里に住む若い女の子が、ある日突然いなくなってしまったんだとか……」

「登録を頼む」

「早いですね……もう少し詳細を聞いてからにしてはいかがですか?」

「今この時も、その女の子がモンスターにさらわれて心細い思いをしてるかもしれないだろ?俺は勇者として困ってる人を一刻も早く助けたいんだ」

「……わかりました、まあそこまで仰るのでしたら早速……」


 これで待ちに待った新たな女の子との出会いを獲得したも同然の俺は、ホクホク顔でリリスとマリアのところに戻る。


 いや、待て待て女の子が失踪したって話をホクホク顔で話すのも変だな。

 俺はリリスとマリアの前できゅっと顔を引き締めた。


「お前ら……大変だ。エルフの里にいる女の子が……失踪したらしい」

「エルフ……ですか?それは大変ですね……」


 温かい紅茶を飲みながら半ば他人事の様に言うリリス。


「ふ~んそんなことがあったのね」


 マリアは恐らく俺の話をまともに聞いていない。

 黙々と注文した飯を食っている。


「二人とも……俺は勇者としてこの事件を放っておけない……だから、失踪した女の子を探すクエストを受けて来た……ついて来てくれるか?」


 それを聞いたリリスは立ち上がって目を輝かせ、


「はい!どこまでもついて行きます!今度はエルフの女の子がいなくなって悲しんでいる里の人たちを救うなんて……さすがは勇者様です!」


 そんな風に言ってくれた。


「私も勇者様が行くところならどこへでもついて行くわよ……これ結構おいしいわね」


 マリアは飯を食い終わる気配がない。

 まあ食欲があるのは結構なことだ。


 ちなみに、マリアは良くも悪くも俺たちに慣れて来たのか、大分喋り方がフランクになってしまっている。


 お姉さんからもらった詳細によると、エルフの里は結構村から離れた場所にあるらしく、今回は長旅になりそう。


 今日一日はクエストに行かず、旅の準備にあてることにした。


「勇者様勇者様、あの……おやつは何ゼニーまででしょうか?」


 明日に向けた買い物をしていると、リリスが話しかけて来る。


「リリス……別にいくらでも持っていったらいいだろ。遠足じゃないんだから」

「あら勇者様、それでは私はこれくらい持っていくわね」

「マリア、お前は持っていきすぎだ。普通の荷物はどうすんだよ」


 仲間になってからわかったけど、こいつめちゃめちゃよく食うな。


「ていうかお前ら、今思ったけどどっちか俺の呼び方を変えてくれないか?両方から勇者様とか呼ばれるの、結構ややこしいんだけど」

「ええっ……でもでも、勇者様は勇者様です……」


 リリスは今のまま譲る気がないらしい。


「では私がアディ様とお呼びするわ!」

「じゃあそうしてくれ」


 買い物を終えて俺とリリスの家に向かう途中、俺は一つ気になっていた事をマリアに聞いてみた。


「なあ、マリア……お前初めて会った時に俺の事を『憧れの勇者様』とか言ってくれたけどよ……王都にいた時もお前とは会った事なかった様な気がするんだ」


 するとマリアは、懐かしむ様に目を細めながら答える。


「アディ様が覚えてないのもしょうがないと思うわ……あれは、王都に大雨が降った日の事……。路地裏に捨てられてずぶ濡れになっていた子犬に餌をあげ、自分の上着を被せていたアディ様を、私は見てしまったの……」


 ああ、あれか……。

 たまたま路地裏を歩いていて捨て犬を見つけたら、何だか脇の方でこっちの様子を窺っている美少女がいたもんで、もしかしたら俺を好きになるかもしれないと思って犬に優しくしといたやつだ。


 あれマリアだったのかよ。


「『ろくでなし』『家畜以下』『外道』と様々なあだ名で呼ばれていたアディ様だけど、本当はすごく優しい人なんだって知って、それ以来私の頭の中はアディ様のことで一杯になってしまったの……」

「おい誰だそんなあだ名をつけたやつは……ぶっ飛ばすぞこら」


 リリスはマリアの話を、感動に満ちた目でうんうんと頷きながら聞いていた。


「そうです!そんなあだ名をつけるのは勇者様のことを全然知らない人たちだと思います……勇者様は本当に昔から優しくて……その、素敵な人です……」


 途中から照れて言葉が尻すぼみになってしまうリリス。

 いやーそれはお前が美少女だったからだよ、とは言わないでおこう。


 家に帰って夕食を食べると、俺たちは明日の出発に備えて早めに寝た。

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