美少女暗黒騎士、思い悩む

 マリアが帰った後、すっかり冷めた朝食を食べながらリリスが話しかけて来た。


「あの、勇者様……本当に、王国には行かないんですか?」


 リリスはいい子だからな……王国の危機、というよりはただ単に困っている人たちを見過ごせないんだろう。


 でも、俺だって譲れない。


「行かないよ。金なり何なり報酬でもくれるってんなら話は別だけどな」

「助けたらお礼としてもらえたりは……」

「可能性はあるけど保証がない。俺を追い出した時の様子から言って、勝手に助けたとか何とかイチャモンつけて何もくれないってのが相場だ。それに、魔王の脅威を退けたとして被害の修復やら賠償やら、王国が金を使わないといけない案件は多々ある。俺に寄越すような金なんてわざわざ作らないだろ」

「…………」


 リリスは黙り込み、俯いてしまった。


「まあお前はいいやつだから、王国に行って困ってる人たちを助けたいってのもわかる。でもさ、俺たちにだって俺たちの生活があるんだ。な?」

「はい……そうですね……変なことを言ってごめんなさい……」


 そうは言うものの、リリスは明らかに納得していない様子だ。

 まあ、クエストにでも行ってればその内忘れるだろ……まさか一人で行ったりなんてことはしないだろうし。


「さあ、飯を食い終わったらクエストにでも行こうぜ」

「は、はいっ」


 そんなわけで今日も俺たちはクエストを探して冒険者組合にやって来た。

 リリスを待機させ、一人でいつものカウンターへと向かう。


「よお、昨日は散々だったぜ」

「おはようございます。あら、私の友達は喜んでましたよ。憧れの勇者様とカーニバルを楽しめたって」

「確かにあれはカーニバルだったな、それもかなり盛大な……」

「それで、今日もクエストをお探しですか?それでしたらおすすめは†絶影†ドラゴンの討伐何かがありますけど」

「あー、甥っ子そっち方面行っちゃったか~」


 そっちは修羅の道なんだけどなー……。


「ていうかドラゴン討伐以外のクエストはないのか?俺らが報酬高いのって言って頼んだのもあるけど、今日は報酬関係なしにまったりしたクエストをこなしたいんだ、採取みたいな」

「あら、そうだったんですか。ドラゴンを倒したそうな顔をしてらしたからつい」

「どんな顔だよ」

「それでしたら百年茸の採取などはいかがですか?山奥の危険な場所に行かないと採れないので報酬が高いのですが、勇者様なら何も問題はないでしょう。何より、あの辺りは景色が綺麗なんですよ」

「おっいいね。じゃあそれで登録を頼むよ」


 こうして今日はあまりモンスターと戦ったりはせずに、のんびりと採取クエストをこなして過ごした。


 村から少し離れた山の奥に入り、雄大な自然の中でゆっくりと百年茸を探す。


 時折綺麗な花を見つけては俺を呼び、楽しそうに眺めるリリスの笑顔を見て、俺はどこか安心していたのかもしれない。


 その翌朝、リリスが消えた。


 朝起きてリビングに行くと、テーブルの上に書置きが残されていたのだ。

 そこには「王国に行って来ます、勇者様のお手を煩わせないように、一人で。勝手なことをしてごめんなさい」と書かれていた。


 まじか……。


 俺は、まだまだリリスの事をわかっていなかったらしい。

 まさか一人で王国に行くとは。


 とはいえ俺はもう知らん。

 俺はあれだけ行かないって言ったわけだし、あいつも元魔王なら魔王の危険性も承知の上だろう。それでも行きたいというなら、俺に止める権利はない。


 まあ、これでしばらくは好き勝手に外出出来るし、家にも女を呼べるからハーレム復活だってやりやすくなるか……。


 …………ちっ。


 適当に自分で用意したまずい飯を食っていると、玄関の扉がノックされた。

 相手はマリアしかいない。


「どうぞ」


 そう俺が返事をするのとほぼ同時に扉を勢いよく開けて入って来たマリアは肩で息をしていて、何やら只事ではない様子だ。


「たっ、大変です!遂に王国に……担々麺ニボニボ風味の軍勢が攻め入って来たと早馬からの報告が!」

「そうか」

「ええっ……反応薄いですね……それだけですか?」

「だから言ってるだろ、自分たちでどうにかしろって」

「…………」


 マリアはしばらく俯いていたけど、ゆっくりとこちらを見据えた。


「勇者様……聞いてください。早馬から連絡が来た時点で王都に侵攻、ということは下手をすれば今はもう王城まで侵入されているかもしれません」

「だろうな」

「そうすると、しばらくはアディ様の代わりに雇われたレオナルドという勇者様が戦ってくれるでしょう……しかしその、レオナルドという方は」

「普通に魔法や技が強いだけ、なんだろ?」

「はい……正直、魔王に勝てるとは思えません。それに若い男の人ですから、そこそこにスタイルがよく色気のある担々麺ニボニボ塩風味に惑わされるやも……」


 何だと……。

 その言葉で、飯を食っていた俺の手が止まる。


「何……?担々麺ニボニボ塩風味ってのは女なのか?」

「はい……あまり必要のない情報かと思ってお知らせしていませんでしたが……」

「もっとそれを早く言えっ!」


 気付けば俺は振り返りもせずに家を出て、王都に向かって走り出していた。


「えっ!?ゆ、勇者様!?」


 慌てて追いかけてくるマリアの足音。


「待ってろ……今助けに行くぞ!」

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